世界の終わりの短編祭 Side-B 投下スレ[2] &後夜祭用◆ テーマ:続く世界

380  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 22:48:57 ID:c970524c
遅い時間にすみません、投下させて頂きます
タイトルは、「一月から八月まで」です。
よろしくお願いします

381  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 22:49:32 ID:c970524c
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     ,,r''"~⌒^`:、       _,,..-‐''"        ^`:   `、       __,, --‐''
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  ,i'⌒ヽ    シ               ''':‐-,‐‐'''           ⌒^~
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一月。

いちいちどこでも誰でも、

「あけましておめでとうございます」
「あけましておめでとうございます」

などと、あいさつを、したりされたり、またしたり。

そんな頃です。

382  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 22:50:03 ID:c970524c

今は、お母さんとその娘さんが、
二人で暮らす、とあるおうちでも、

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.             __ ==、-_、_ _
        /:::::::::::::::ーフ__}ニ、::::\
       /: >、:::::::_:,r/: : , : ヽヽ、:{             _   _,
        /.ィ、::::::∨/: : ィ:/|ヽ l: \ソ:>.         ___,> Y´'ー-、
        ,': :\\//_ 孑/ ! |、!: : ヾ.,イ         ._>z二_ ___`ー≧__
        !:l |:l:  ̄|/´//'   ! l卞: : ハ: :l        >┴'´ ̄` ‐-、 ̄ 7 <
        !l:!:l:l: : : l/_,      |/ l: :j、!ト|      /        ヽ `Y′之>
.      |ハハ:',: : :|ミ≡"   ≡=/:!/ |' ハ    ./  ,  l、 、 , 、 |  ヽ  } <
       ヽl ト、: !._   ー   ノ:::::::/レ       l ,ィ { {7Tハノ T寸寸ヾ  }ノ  |
          ヘ>ヘ、|ヽヽ┬</,イ:::/         |ハ| l (>)  (<) / / ,/レ′
          /   ヽ ヾj  l \|/            .`|l⊃ 、_,、_, ⊂⊃ |ノ'/|/
       ,'    i ヽ. ,'  !   !          /⌒ヽヘ   ゝ._)   j /⌒i !
        l    |  ∨ ,'  l l           \ /::::: >,、 __, イァ/  /
.        ,'    l  / /  ! l          /::::::::::::::7Eニ:::{:::ヘ、__∧
      l     ├ '-、'-、, ┴、|             `ヽ<:::::/     /::::::::::::/
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「あけましておめでとうございます、
今年も一年、よろしくね」

「あけましておめでとうこざいます!
ことしもいちねんよろしくね、お母さん!」

などと、朝も早くから、
あいさつをしたりされたり、してました。

383  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 22:50:43 ID:c970524c
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    , .:'"~` '"` ' ::。         . ''":   . :   :. `" ::、
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さてさて、あいさつの後は、朝ごはんです。

本当は、おせちをたくさん作ってあげたかったけど。
せちがらい時代のせいか、いつもよりちょっとだけ、
おかずが多いだけ。

ちょこちょこと、箸で端から皿をつついていた娘に、
お母さんは、ちょっと申し訳なさそうに、
「ごめんね」と言いました。

384  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 22:51:16 ID:c970524c

「えっ? どーしてお母さんがごめんなさいするの?」

「だいじょーぶ、お母さんのごはん、
とってもおいしいよ!
今日はいつもより食べられて、うれしい!」


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        /  /             从        \ゝ
       /    i   |::::  ヽ         ゝ,        ヽ
.       ′ '  ハ   ヾ:::  |\  ハ |   ヾ;.  |:::::      ヽ |
        | | │. / \.   ヾ |  ! / !. ! | i::: :ト.::::       ∨
        | | │ハ.|  _ _、   | ,.x }/─ トl . / i::::/:::∨ヽ::::::: /
        |ハ V. イ´  `ミ、.l ,x=≠ミ.z// ,/ V::::::::::: ::::(::::::!|
       l! ゝ.  l,x=ミ、  `      イ/ / ) |:::::::::::::::::::\ |
.          7∨      ,:     / j.イr '_ノ::::::::::::::: ハ::::ノゝ
.            ハ.        ,       rイ:::::::::::::::::::::/
               ゝ   `   ´      .イハi!:::::::::::::: //
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         / ̄ ̄ ̄`¬ー- ̄_    ____ヽ
           }=‐-___        ̄ー=三三三三ミ、
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と、娘は笑顔で言いました。

たしかに、いつもよりはちょっぴり多め。
でも、いつものご飯がちょっぴりだから、
やっぱりちょっぴりです。

お母さんがまだ子どもだった頃と比べると、
本当にちょっぴりでした。

385  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 22:51:58 ID:c970524c
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        ,-ー、ーv-ー  、
     / ̄,ー,-ー‐ヽ、    `  、、
    / /彡/.|: :. :. :.\ミヽ、    > ヽ
   7‐'フ/ /./ト: :、: :. : ヽ`、ヽ、 /ヽ: :. :ヽ
   ゝ、//: : :/j |、: :ト、: :. : V`、ヽ'   \: : .ヽ
  /\/: :__/|/ lヽヽ--.、: :V、丶  __ゝ: : .}
 /: :/: : :/:/_ノ  ヽ.ヽ| \`ヽV L==-‐ー: :. : |
 : : |.イ: : :/=ミ     ン=ミ、: V / :/: :. :/: :. :. :.|
 ,: :|.ハ: : /ィiうヽ    ' i、 j`ヽV :./: :. :/|: :. :. : }
 : |:レ | :∧'.ト::セ     |::ii:::::リヽ/: :. :/-|: : /: :j
 /|: : ヘ | :}弋:リ    弋ヒ::シ :/: :. :./^ ) :イ: /
  | :∧v: :{ ^` _    `‐'//: :. :./_ィ': :./|:./
  |: :ハ: : ヽ、  ー   " //j: :. /:. :ィ: :/ レ
  ∨ ヽ: :| `.i  、___/=/: :んィ/|/
     .、 :|  リヘ|>‐ー<_.// }レ
      ∨   ソ     レ  ̄`'
          /      、   ヽ
         /      ヽ /  ヽ
         /       .Y    }
        /        ヘ   ヘ
        /         ヘ   ヽ
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お母さんは、顔で笑って、
心はちょっぴり泣きながら、思いました。

できれば、来年の今ごろは、
おなかいっぱい、食べられるといいね。

できれば、ぜったいに、お父さんと、三人でね。

386  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 22:52:29 ID:c970524c



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387  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 22:53:05 ID:c970524c
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二月。

にがい思い出は、去年に捨てて。

ニコニコ笑いながら、歩きはじめたり。

そんな頃です。

388  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 22:53:48 ID:c970524c

「オニはーそと~!」

「ふくはーうち~!」

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            _   _,
         ___,> Y´'ー-、
        _>z二_ ___`ー≧__
        >┴'´ ̄` ‐-、 ̄ 7 <
       /        ヽ `Y′之>
.      /  ,  l、 、 , 、 |  ヽ }<
      l ,ィ {7Tハ T寸寸 |  }ノヘ ))
    (( ,ヘ, |(○) (○) / / ,/ /
      '、 `|'''' r-‐‐┐''''.「)'/|/ /
         \ヽ、ヽ、__,ノ _,.ィT/=/
        < l 7Eニ::ィ1    〉
         ゝ'イ/ヽ::::` 、 /
           i´ ̄ `ヽ::|
          j|       <
         /    ヽ  \
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今日は節分、豆をまずは食べずにまく日です。

昨日は節約、明日も節約。
でも今日はちゃんと、歳の数ぐらいは、
まける豆を用意できました。

お母さん、なんとか負けませんでした。やったね。

389  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 22:54:23 ID:c970524c

豆をまいた後は、もったいないので、
ひとつひとつぶ、マメに拾って、洗います。

その後は、二人でお豆をちびちびと。

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               /  7     /´ ̄``   /      i    ∨
                /  .7   // / / /   イ      }-ト、   i
                // ,i   7 }/ | / /  ./.        / /  `ヽ、}
              '´/'|    !{ / {7 ./ //         / ,′   /\  }
               // ! .|  | ハ、_// /      / / /  ./   ヽ/
            ク /  .| i{  |  z≦ニミ、 ′    / ムイ /  / ,  〃
.              ´   i |V ! 〃   ヾ/    ./    //i //ムイ} /,′
.             /   |!:∨i       /  ./´   _,z==ミ_ '   ムイ/
           | ./ .∧∨', !////.,/´      ´  ̄`ヾzトz-./
               {/ / /  i.|i i!    /´               Ⅵ/   /
             / /   | |i. `      、            -= ィ  /
           ーイ.   リ∧              ///// //  ./
             / /.     ∧    r- _              ィ    /
             ./ /|. /     ∧    V.   __`;       /   /
             | /||, 仆 |:::::::、      _.ノ        ̄/ /y      /!
              ,'   ! i/ .j.| ソ.―-へ           ___, -‐=  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                r-―-=ニ三三三≧==-- ――"    ________
                1ニ三三三三-=ニ        _-=三三三三三三三三
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「おいしいね、お母さん!」

娘は笑って言いました。

「うん、そうだね。
来年は、もう一粒多く食べれるからね」

本当に、そうなるといいのにね。
お母さんは、心の中で、
そっと、ぎゅっと、願いました。

390  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 22:54:54 ID:c970524c



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391  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 22:55:57 ID:c970524c
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  ..._,,,. ;;;._,,,..._,,,..,            ..._,,,. ;;;._,,,..._,,,.., ..._,,,. ;;;._
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三月。

さんさんと太陽さんが、山間から光を照らして。

そろそろ、寒さがさらりと減っていく。

そんな頃です。

392  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 22:56:44 ID:c970524c

「ねぇお母さん! お父さんは、いつ帰ってくるのかなぁ?」

娘は無邪気に笑って、お母さんに聞きました。

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      <  之              \        /i l /l7 |  ゙{ ヽ`:}!   .::.l
       >{/                ヽ ヽ       ./,:!:j  i{' __   i! z;,_゙'l   .;/:j
         | |/   |   |  ヽ  \ { ヽ     ハ! l ,{ ィ'''   "゙゙`i!  .::/:.:.!
         | li l l Ⅳ斗lーハ\  |-┼ト | /       l :V::i   '    i  .::/;.イl
         | Ⅳl l         \|  /|j        i.: :. !¨! ,_ `'′,,ィ ; /:' |!
         | ヽ.ヽ{  ___   _  ! /           !:../二i_/l| ´ノ:!/'"
        \ \ヽ'く xx    xx レ              l こj' lj/ _」、
.           \ト、`匚__ f 7   ノ           ./j /l,j/ /   \
          _\V  \Τ ̄|<         /|/ /二',/  ,    _ |
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「そうだねぇ、夏か秋ぐらいには、帰って来たら良いねぇ」

お母さんは娘に、顔では笑って、必死に笑顔を作って、
心の中では、心配をぎゅっとにぎって小さくして、答えました。

本当に、娘の言うとおりになったら良いのにね。
お母さんは、ひそかに、強く、思いました。

393  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 22:57:43 ID:c970524c

お父さんは、ちょうど一年前の三月に、
赤い紙と一緒に、遠い遠い所へ行きました。

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       ヽ'           i  i ヽ::ト、:ヽ`ヽ\:!     ヽ
        ヽ、,,_        ノ  l }/ ヾ}/       /i
         ゝ       /   .l   /       / ヽ
         .j     __,,,     ! ./       /    ト、
__,,,, へ >ニー ''"   /\    /       /     j ヽ
         /        ヽ  \/         ./       j  ',
       / /       \ /        ./ '"          ',
        /       r''"/        /              !
━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─


「それじゃあ行ってくるよ。二人とも……元気でね」

お父さんも、遠い遠い、命の危険がある所に行くというのに。
お父さんも、きっと怖いはずだったのに。
それでもお父さんは、お母さんと娘に心配をかけさせまいと、最後まで、笑っていました。

ほほえみながら、遠い遠い所へと、列車に揺られて行きました。

394  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 22:58:15 ID:c970524c

だから、お母さんも最後まで笑っていました。
笑ってお父さんを、見送りました。

━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─


                                     ____
                                   ィ'―‐rz―-、 \
            _   _,             /  /: :.`\ \ \
         ___,> Y´'ー-、           , '└イ: :| 小l: : \ノ: : : ',
        _>z二_ ___`ー≧__        /./: : /_,'」/ | ヽ-、__|: : : : }
        >┴'´ ̄` ‐-、 ̄ 7 <      ./イ: :l.イ/z|_ | ',≧、「: :./: |
       /        ヽ `Y′之>      .|: :| j.ィうヾ   うヾト :/ ィ.|
.      /  ,  l、 、 , 、 |  ヽ }<         |∧ハヽノ   弋ノl:/ノ,'l |
      l ,ィ {7Tハ T寸寸 |  }ノヘ ))    ..lハ: :イ┬―――┤,イ/`´
    (( ,ヘ, |(>) (<) / / ,/ /          Vl |      |レ」l
      '、 `|'''' r-‐‐┐''''.「)'/|/ /           ./-v'      |´ 〉
         \ヽ、ヽ、__,ノ _,.ィT/=/          / ニ}|    _'三Y´ }
        < l 7Eニ::ィ1    〉           ハ  jl    {  ハ |
         ゝ'イ/ヽ::::` 、 /            / {ノヽ__ハノ ヽl
           i´ ̄ `ヽ::|            {   _} | | |\   ノ
━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─


「お父さん、がんばってねー!」

娘は無邪気に、お父さんを見送りました。

「……絶対に帰って来て下さいね、あなた……!」

お母さんは、本当に本当に、強く思って、
心の中で、ぎゅっと祈りました。

お父さんを二人で見送った後、
お母さんはその夜、一人でそっと、泣きました。

395  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 22:59:31 ID:c970524c

お父さんからの手紙。
はじめは、一ヶ月ごとに届いていました。
内容は、遠い遠い所のこととか、周りの人のこととか、
娘は元気でやっているか、お母さんも大丈夫は、苦労はないか、など。

お母さんは、キレイな文字で。
娘は、覚えたての文字で、返事を書きました。

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けれども、だんだんと、手紙が届くのが遅くなりました。
最後にお父さんからの手紙が届いたのは、去年の十一月でした。

返事は書きました。
けれど、お父さんからの返事は、まだありません。

396  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:00:02 ID:c970524c

「お父さんの手紙、いつくるのかなー?」

娘はたまに、ちょっと心配そうに、お母さんにたずねます。

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         _」ヽ  /|
           >  ゙V´∠イz‐、_
      /  ,ヘ,_ /__/ ∨マ´
     //  /    ´       `丶、
    _,//   /              \
   _,//  〃   /    {         ヽ
   ,ノイ|  l′ .i  /   ∧  ヽ\     ハ
    小 |   .|   | i ./_,\   .}ヽ    |
.    从 .|   .|   | N___ \}´_j ハ .i |
    ノハ小   .| 八ト |:::::::::|    「:::「iハ .i |
.     从 ヾミ.|   |.  、:.:.:ノ    、:.ノ {V |
     ノハ小.Y|  | ""         " j i |
        (ヾ∧  ト _   σ_  イ .i リ
         入\三∨:::::7ニE7 f゙} jノノ|/
       /三三\\三ニ=-/)アX⌒Y/ノ-、
     /三三三ニ≧、二>/   /ハソ ヽ三ミ、
     ,'三三三三三三三/    /  /三三ハ
    仁三三三三三三ニ|    ノ  マ三三ニ!
━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─

「そうだねぇ、もうちょっと暖かくなったら、お返事が来るかなぁ。
だからもうちょっとだけ、待ってようね」

お母さんは、いつもそうやって、ごまかして、娘を安心させようとしていました。

本当に、お返事が来ると良いのにね。
お母さんは、心の中でそっと、ぎゅっと、祈りました。

397  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:00:34 ID:c970524c



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398  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:01:05 ID:c970524c
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四月。

幸せが、しわ寄せてくるような。
あるいは、死が忍び寄ってくるような。

そんな頃です。

399  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:02:00 ID:c970524c

「お母さん……ころんだ時に、しょうじ、やぶっちゃった……
ごめんなさい、本当にごめんなさい……」

「ふふっ、そんなこと、気にしなくて良いよ。
後でちゃんと、二人でいっしょにはり直そうね」

━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─



      {`丶    ,. -''}
      ,ゝ `ヽニ/´ _,ノ
      /: : >:'':宀:.<、:`:.、 っ
    / /: :!゛: : j ::ハ:V: .`  ヽ っ
   j . l: ::l.:,-7!:/  V!ト:i: :!. .`、
    |: ::!: :j//__レ   ,.j!.V:!: |: ト、!
   |: ::!: :j/示!   示ヤ:}.:.{: :! ゙              _   _,
    .l: {.l:. :! !zリ    lzリ ハ:lハ:.!               ___,> Y´'ー-、 ;
    l:ハ:l:; l、  ┌ァ   ,ノ,!::| V            _>z二_ ___`ー≧__
    ゙  ヾ、!:;コ‐-rァ"!:/ V                >┴'´ ̄` ‐-、 ̄ 7 <
       / ヾ._コ`ヾ                /        ヽ `Y′之>
      へ\ `、|//〉、               ,  l、 、 , 、 |  ヽ }< ;
    /  \\`、レ// `、         l ,ィ {7Tハ T寸寸 |  }ノ |
   丿   . }' ,>ミ}ヒへ{、 ゙i          |ハ |(>) (<) / / ,/レ′
   ゙!―--v{ __ :ノく` ./=彡  ,/フ、_,      .`|゚       .゚。「)'/|/
    E三ヨ-' く_j l ヾ'゙ ヒ彡‐'" 、_ク       .ヽ、_. Δ  _,ィT/!
     |´  ,.-、_ヲ| l _」 ヽ.__/             .V:丁レ/:/ノ::::::V| ;
      ̄//~丁゙!、|/ヘ              rヘ,、ノ:/7:「⌒Y::::::: |
     .// | |` ! ヘ               ヽァ'::ヽ{::::::〉¨´:ヽ:/::|
     //  l   !  l  ヘ                \__ノY:::ヽ:_ノ::: |
━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─

けっして、豊かな暮らしではないけれど。

今日も二人は、なんとなく、とりあえず、幸せでした。

400  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:03:03 ID:c970524c

そんな二人の幸せを。
しょうじのように、引きさくように。

━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─
                                                  , -七l
                                                /   ./
                                               /   /
                                               /   ./
                                           /    ./
                                          /    /
                                         /     /
                                    _ / /     ,/
                                ==-f´ヽ ̄\、    /      ,  ァ
                                    ヽノ七戈   /        / ./
                             ||    /  ̄    /、    / /
                             ィ^ヽ ̄ ‐-、    /  \ /  /
                       __ィェそ -廴化匀_}_}_> /_  /  /
                     γ´ヽ      冫_ ̄ ̄_,_,_戎勹  ̄ ̄丁丈¬-、
                      丈ト})  )    ̄ノ ̄ ̄ ̄ノ    )__,,,式 ┘
                        `ー--ァ----------ttー―γ戈 /
                   \ィ^ヾ ̄匕_    //    /  /
                     叉彑ノノ式>  /      / /
                _||_ _/  ̄    /      //
               _f´d劜))>   ./          ̄
               ̄ ヽー¬ ̄ ./
               /    /
                /    /
           /   /
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静かだった深夜の空を、たくさんの飛行機が、引き裂いていきました。

401  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:03:35 ID:c970524c
━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─


             /  ィフ":.:. ハ:.:.:.:.:ト、:.:._:.:. \ .:.: |:.:.:.:.廴):.:.ヽ、
 fヽ          '‐'ア::レ':.:.:.:.: 小:.:.:.:..! \ `ヽ、\ |:.:.:.:.:.:.l:.:.:.:.:.:l
 ゝ`ヽ、           /:.:.:.:.:.:.レ ! | \:.:..',  \:.:.:.:.:.:.:|:.:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.:|
.f ヽフ,>- 、      /:.: !:.:.:.X:. |  ヽ \:', _\ :.:. |:.:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.:l
.l  / ////久    .' :..: | :.:.: ハ |_  ヽ  \fニテミ、:.j:.:.|:.:.:..|:.:.:.:.:.:|
. `7.////. /  \  .f:.:.:.:.:.:.:.:.:.| 〉ィ気  \  f込.ノⅤ :.:|:.:.:.:|:.:.:.:.:.:|
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       ヽ       |  V:.:.:|ハヽ __└ ニ′イ_|:.:.ハ
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             ` ‐- 、        〉  .| ., '   /  `ヽ、ヽ
                `丶、.   ハ   レ'   ,イ      ヽ \
                    `ヽ〈 .V |  / }        丶 \
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「はぁ、はぁ……おかーさん、もうつかれたよぉ……」

「がんばって! 後もうちょっとで、防空ごうにつくから……!」

ドォン、ゴォンと、大きな音を立てて、しょうい弾が落ちてきて。
あちらこちらから、白い煙と赤い火とが舞い上がって。

黒い夜空が、白と赤と、たくさんの人達の悲鳴で染まる中、
お母さんと娘は、けんめいに走って、逃げていました。

402  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:04:12 ID:c970524c

お母さんは、ぜったいに離さないと、娘の手を、
強く、かたく、ぎゅっと、握りしめていました。

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    `丶、                 \    ̄ ヽ
        ヽr_、_    u.      lヽ     \.r‐- 、_
        |-|_ト、             |八   u. /  // `丶._,   -― 、
         'ーL|‐|-、      、  ∨ \    /  //     l       \
          └ヘ‐'\ \ \ \  ヽ ーヽ  ;'  //     |
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                                `¬=‐〈
                                 \
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娘は、握られた手が痛いと、思っていたけれど。
けれど絶対に、お母さんと離れたくない、一緒にいたいと思っていたから。
ガマンして、一生けんめい、お母さんの手を握り返していました。

403  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:04:48 ID:c970524c
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必死で走って、逃げて、逃げ回って。
ようやく二人は、なんとか防空ごうにたどり着きました。

中には、先に避難してきた人たちが、七、八人ほどいて、
みんな力なく、座りこんでいました。

暗くて、狭くて、怖いところ。
でも今だけは、ほんのちょっぴり、安心できるところでした。

404  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:05:21 ID:c970524c

外からは、ドォン、ゴォンという大きな音と、
耳をつんざく様なサイレンの音と、
色んな人がかけていく足音と、たまに悲鳴とが、
混ざり混ざり、たえまなく聞こえてきて、さっぱり落ち着きません。

「こわいよう、お母さん、こわいよう……」

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          _   _,
       ___,> Y´'ー-、 ;
      _>z二_ ___`ー≧__
      >┴'´ ̄` ‐-、 ̄ 7 < ;
     /        ヽ `Y′之>
.    /  ,  l、 、 , 、 |  ヽ }<
    l ,ィ {7Tハ T寸寸 |  }ノヘ
     ,ヘ, |(○)三(○) / / ,/ / ;
    '、 `|   ヽ   ゚。「)'/|/ /
      \ヽ、_ c=っ  _,.ィT/=/
      < l 7Eニ::ィ1    〉 ;
       ゝ'イ/ヽ::::` 、 /
         i´ ̄ `ヽ::|
        j|       < ;
       /    ヽ  \
━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─


張りつめていたものが解けてしまったのか、
不安が増してしまったのか、あるいは両方なのか。

ついに娘が、シクシクと、泣きはじめてしまいました。

405  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:05:51 ID:c970524c

暗い防空ごうの中、周りからは白い目。
暗くてよく見えないけれど、なんとなくは分かります。

お母さんは、けんめいになだめようとしますが、
一度泣きはじめた娘は、なかなか泣き止みませんでした。

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       __,.:-‐:‐:": : : :`ー-‐'´: : :;ィi: :.:i:: : : : : : :: : : : : : :\
        ̄ ̄>'´ : : : : : ; : : : :/|' |: .::ト、: : :\::i|:: : : : : : : ヘ
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        /:.;/: ::i: : : : : : :|´|:_:/、 |  ヽ:| ィチテ心、.|:: : : : : : : : :.|
       /::/|: :::|: ::i: : : : |,ィチ心、 !    f_,,ノ:::::} 》:: : :: : : : : : j
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           '´    / // //)、ヽ、_,// /:::::/  `ヽ、
━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─


どうしよう、どうしようと、お母さんがあせあせしていると、
防空ごうの片隅から、ボソッと、
けれどちゃんとハッキリ通る声をかけられました。

「……うっさいなぁ。赤んぼやないんやから、ピーピーさわぐなや」

406  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:06:33 ID:c970524c
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     ノ.:.:.:./ |.:.:/ `V ハミ、  彳行V´.:/
   /.:.:.:.:.:.ト、.ノ:./  弋ヒ. ソ   ヒ .:ソノ.:/
  /.:.:.:.:/.:.:.:.:.>ー小、           ハ
  |.:.:.:./.:.::::::::::::::::::::(>  ⊂=⊃ . イ.:.:.:'.
  |.:.:/\.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:|\| > ー< ):.人:.:.:.}
  ヽ(   \.:.:./ ̄\  ̄\/__ノ\ : :/
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         |: : :.ヽ   \:_:_:/   |/ : |
━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─


「みんなバクダンが怖いんや。
でもな、大きな音だすと、敵さんに気づかれて、
バクダン落とされてしまうかもしれんから、みんなガマンしとんや」

「だからアンタも、赤んぼやないんやから、
みんなと同じよーにガマンせんかい……!」

娘と同じぐらいの、薄よごれた服を着た少女が、
娘をピシャリと、叱りつけました。
娘はビクっと、体をふるわせました。

407  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:07:11 ID:c970524c

「うう~っ」と、とうとう本格的に泣き出した娘を、
無理やり泣くのを止めさせるように、
少女はササッとすばやく娘に近づき、
ほおを両手でピシャン、とおさえつけました。

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「だーかーらー、なーくーのーをーやーめーろー、
っていーうーとーるーやーろ~~!」

そのまま娘のほおを、グリグリ、グリグリ。
娘もお母さんも、少女のいきなりな行動に、
ただただ、おろおろ、おろおろするばかりです。

408  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:07:46 ID:c970524c

すると少女は、娘のほおをグリグリしながら、
お母さんに向かって言いました。

「なー、アンタもこの子のお母さんなんやろ?
子どもがベソかいとんやから、アンタもオロオロばっかしとらんで、
この子おとなしゅうさせる手伝いせんかい!」

まだ娘と同じぐらいの少女に怒られて、お母さんはちょっとびっくり、少し悲しみ。
けれど、少女の言う通りだとすぐに思い、娘の肩をよせて、抱きしめながら、言いました。

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                __,,...--‐‐ -  、    V   ム-‐'‐.' /
              , -'"               ``丶、..V  /      , '
            ,                     >、     _/
              /                  K /天 ̄
         /                   !レ   、 ` 、
        ,-'"                /      !   /.i  丶
    , -'" ,/  /         /   /      !.  /i .i   丶
_,,..-‐''_,,..-‐''/ /          /   /  .   /  / ! i     ヽ
'''""~.    .//           / /      /  , ',_  ! !    ト、ヽ
   _,..、-''"     !   .     //        / , ' /-", ソ 仆、  !
  /         !        /       i / ./ ;;レi /   !    !
. /  _,,..-,'   ,イ   i     / /       i !,'  i ;;;i !  /
/, -'". / //    !    //./      /! .i   、_ノ ヽ /
"   // /   ノ!. カ     " /   /! . / .! ! u.    ,ゝ
   〃  ./. .//../ i     /  / / ./  ! !    、_ /!
      // / /  !    ! /  _//   i ./     / i
         /ノ   !   ル.'   /i''!   _''    /`、!
            !  /! / i / !!   i    ̄
━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─

「ほうら、私もいるから、あなたを絶対に守ってあげるから……
だから落ちついて……ねっ?」

ウソではないけれど、根拠はない。
けれど本当にしたい、心からの思いを。

409  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:08:16 ID:c970524c

それからお母さんは、娘の横に座りなおして、
娘の左手を、あらためて強く、ぎゅっと、握りました。

━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─
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                     _ ∠ __ `ヽ    ______   -‐
                     //(__,__  `ー'  ̄
      \     _   -‐   /      ` ‐- _
      〃 ̄ ̄   .. -‐   ´        ー- 、 \ __
         .. -‐                ー- 、{`ヽ_) )⊃ー───────
       ̄                       ‐-r‐メ、_ノー‐'
                   -‐ ーtォ弋フーイー'
━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─


娘を安心させるために。
娘を絶対に離さないために。
たとえ何があっても、最後までいっしょにいるために。

410  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:09:51 ID:c970524c
「……ハハッ、ええお母さんやないか。
うんうん、これで一安心やな。でも、もっとええ方法があるで~」

と、ふざけたように少女は笑いながら、
娘の右手を、ぎゅっと握りました。

━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─
          丶. _   _,.   ―- 、
、            ̄ r‐---―- 、丶、__
  、           丶ー'___   \ ー丿
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        |-|_ト、             |八     /  // `丶._,   -― 、
         'ーL|‐|-、      、  ∨ \    /  //     l       \
          └ヘ‐'\ \ \ \  ヽ ーヽ  ;'  //     |
               ̄`ヽ._\_ヽ__',  |   _|  l |       '
                        `ー' ̄   ∟ l_|    /
                                `¬=‐〈
━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─

「よしっ、これで二安心やな。これでもう大丈夫やろ?
ほならバクダンが落ちなくなるまで、おとなしゅうしとこうか~」

━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─
                    >ー≦:::::::::ニ=- _
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           ヽ\` ー-ノノ ∨ミ=‐- r ´ ̄
                  _ ‐<`、 `ミミ {ノノ\
━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─

そう言って少女は、ケラケラ笑いました。うす暗い中でも分かる、明るい笑顔でした。

411  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:10:23 ID:c970524c

お母さんと、少女に元気づけられて。
娘はようやくホッとして、泣くのを止めることができました。
周りの人たちも、やっとホッと、胸をなでおろすことができました。

「お母さんも……それに、あなたも、ありがとうね」

娘がお礼を言うと、少女はつないでいない方の手を、
顔の前で横にふりながら言いました。

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「アハハッ、別に気にせんでえーよ。
あのままビービー泣いてたら、マジで追いださなアカンかったからなぁ」

さらりとキツいことを言う少女に、お母さんは心の中で、少し怖いなぁと思いました。

412  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:11:28 ID:c970524c
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「……前にバクダン落ちてきた時も、赤んぼが火ぃついたように泣いてもうてな……
かわいそうに、その子はお母さんと外に出るハメになっとったんや。
もうあんなんは、二度と見とうなかったしな……」

そう言って、かなしそうに笑う少女の横顔を見て、
お母さんは、さっき心の中で、怖いなぁと思ったことを、
ダメだなぁ、いけないなぁと、心の底から反省しました。


たぶんおそらく、いやきっと、少女は、二人を助けるために、
あえて自分から、ワザとキツいことを言ってくれたのだろうと。

もしもここに、この子がいなかったら……
と思うと、お母さんは、心の底からぞっとしました。

413  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:12:07 ID:c970524c
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ドォン、ゴォンと、バクダンはまだまだ落ちています。
ゴォゴォと、炎が燃えさかる音も、遠くの方から聞こえてきます。

まだまだまだ、防空ごうからは出れそうにありません。

414  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:12:38 ID:c970524c

「……ねぇ、さっきから気になってたんだけど、
どうして他のみんなと、しゃべり方が違うの?」

やっと落ちついてきたのか、娘は、
お母さんも実はさっきから気になっていたことを、少女に聞きました。

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「ああ、これなー。ウチはこの町の出やないねん。
けっこう遠いところで暮らしとったんや。
そこではな、オトンもオカンもオネエらも、他の人らも、みーんなこんな感じやったで」

「へぇ、そうなんだ! 遠いところから、お引っこしして来たんだね!」

と、娘が無邪気に言うと、少女は少し悲しそうな笑顔で、首をふりました。

415  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:13:09 ID:c970524c
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「……あっちであった空しゅうでな、オカンと上のオネエは、死んだんよ。
下のオネエも、ひどいヤケドで、2日ぐらい苦しんで、やっぱり死んでまった。
オトンは戦争に行っとって、今どこにいるかもよー分からん。
それでウチは、オトンの弟っちゅーオジサンの家で、暮らすようになったんや」

……この時代、探せばどこにでもある、よくある話。
けれど決して良くはない、悲しい話でした。

416  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:13:40 ID:c970524c

「……ごめんなさい。私、イヤなこと聞いちゃった……」

しょぼんと落ちこんでしまった娘をなぐさめるように、
少女は笑顔から悲しさをすぐに払って、ケラケラと明るく笑いました。

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   人   _∧八 ‐-ハ , '  i
      )ィ ( { u  ( o)}ハ  八
     八ハ      〈  イ
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417  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:14:11 ID:c970524c
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「なーに、もうぜんぶ終わったことや、気にせんでええよ。
ウチは生きとるし、とりあえずメシも食えとるし、それでええんや。
『命あっての物種』って、オカンもよう言うとったしな。
生きてるだけでまるもうけなんかもしれんな、アハハッ!」


……こういう子こそ、幸せになれたらいいのにね。


悲しいことを、あっけらかんと笑いとばせる、
笑いとばそうとしている少女の強さを見て、お母さんは思いました。

418  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:14:41 ID:c970524c
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――防空ごうに入ってから、どれだけ時間がたったでしょうか。

ようやくイヤな音が聞こえなくなり、夜の本当の静けさが戻ってきました。


「もう終わったのか?」
「ふぅ……助かったわ……」
「家族が心配だ、早く家に戻らないと……」
「家が燃えてないといいけど……」


防空ごうの中にいた人たちは、
口々にそれぞれの不安をかかえながら、
外へと出ていきました。

お母さんと娘、それに少女も、みんなの後に続きました。

419  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:15:18 ID:c970524c

「おうちはどこかな? 送ってあげようか?」

「かまへんかまへん、一人で帰れるわー」

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              /  .|
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              ヽ l j_/     /
              , ―,ニ> `' ‐  _、-<
         , ' ,/,-ー^フ< ̄`ヽ、ヽ `ヽ
       ,/: :. :゙ ̄: :. :ィ//| V:ヽ: : : `: 、:.ヽ
       / : : : . l./: :. : /7/ |  `、ト、: :. :. :ヽ: :.`
        / : : : : :|/: :.,-/ j./ |   ヘ'ヽヽ、: :.ヽ: : `、
     / : : : : : '|. /^./ レ |    | \: : : : 、ヽ: :.ヽ
      /イ: : : : :、: : : /  j、 j     〉―-、:.:.: : |: ヘ: :.トヽ
    / l : : : : : : : :/彡ミミ '     'イ^テミヽ、: :| : :| : | `
     l: : : : : : : :/;彳 )::ヽ      iヽ':::::} ゝ: レヽ : |\
     l: : : : :/.: :イ {`:゚::i::.|      弋セ:::リ ハ :.|: : |: :|
     l : : : ト、:` ヘ弋ヒル:リ      ヽ‐-' />j ):∧ |
       | : /∧:ヽ: :ヘヽ-‐′   '   ゛゛ {_ ノ y V
      |/ { :ヘ: :\ヘ     ( ̄j     ノ.jヘ: :|
          }: .トヘ: :.ヽ|、    `ー   ,.ィ.,「 / ∨
         ヽ| \、 |ヽ`i、‐-  -‐イ: :./ レ   |
           '|  Vヘ|\l\}     {__/、
           ,ー ー< .ヘ'      〉`、ーー‐-、
            f.    `、 ヽ,-、_  'フ  /    ヽ
            |     `、,rーヽ') 〈  ./      ヽ
━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─


夜も遅くてあたりも暗く、オマケに空しゅうの後です。
お母さんは心配でしたが、少女のオジサンの家は、
お母さんたちのお家がある方向の、さらに先の方にあるということで、
途中まで、三人でいっしょに変えることにしました。

空しゅうの後の、心細く、怖い帰り道。
二人でも、不安だけど。
三人なら、少しだけマシ、なのかもしれませんね。

420  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:16:02 ID:c970524c
とぼとぼと、歩く帰り道。まわりには、ボロボロに燃えてしまった家の跡。

お母さんは、お家も同じように燃えてないだろうかと、
思わず暗く、心配な気持ちになりますが、
娘と少女が楽しそうなので、顔で笑って心で落ちこむ、ようにしました。

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二 ─   = ._r'"゙'、─二             "''''''''" ─ニ─‐  ̄   _r'" ̄'ッ'
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─ニ─二                   ̄   _           ;.,;.,, ,,,,
━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─

「へぇ~学校から帰ったら、すぐにオジサンのお店を手伝ってるんだぁ~」

「ああ、そうや。夜遅うまで働くときもあるし、大変やけど、
ウチを拾ってくれた恩も返さなきゃあかんしな」

「大変だなぁ……私なんて、宿題だけでいっぱいいっぱいなのに……」

「ハハッ、ウチは宿題なんてテキトーやで。
でもな、ガッコじゃ教えられんことや覚えられんことを、
いっぱい知れるから、ウチは楽しんでお手伝いしとるで!」

「すごいなぁ……大人だなぁ……
私も、お母さんのこと、もっと手伝わなきゃいけないかも!」

暗い帰り道でも、娘と少女は、明るくお話。
ただそれだけのことで、お母さんもちょっとだけ、気持ちが軽く、明るくなりました。

421  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:16:54 ID:c970524c
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お家はなんとか、焼けることなく、残っていました。
ドタバタ出ていったので、後片づけはしなくちゃかもですが、
跡形もなくなるよりは、ずーっと良いです。

「そんじゃな~またどっかで会えたらええなぁ~」

「うん、私も! それじゃあまたね~」

娘と少女は、すぐにすっかり、仲良くなったようでした。
少女は娘の、「お友だち」になりました。

色々と、辛いことは多いけれど。
今日だって、とっても怖かったけど。
それでもたまには、こうやって良いこともあって。

良いお友だちができて、本当に良かったね。
お母さんは、心の底から思いました。

422  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:17:26 ID:c970524c



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423  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:17:56 ID:c970524c
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五月。

ゴロゴロと、えんがわで寝転がり。

風が心地よくて、暑すぎず、寒すぎず。
お腹を見せて、ゴロッとしても、カゼを引くことはあまりない。

そんな頃です。

424  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:18:27 ID:c970524c
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             _iヘ  _
         . -―-ゝ.! Y´/-―- 、
     -=ニ´ _   ヽ   /  . -‐-、 > 、_
      . ´  ̄   `>=<´    ヽ、〈
.     /ィ   .  ´        `ヽ、  iヽゝ
     / .i/! , '     i    ! !   ヽ ハ/ ヽ
    /   ./   ト、ノi    .ハ/i .i,   ',   >
    ̄/  .'   i/   ∨  ./  ∨!   .}   .ト、
   / .ィ i  i  === .\/ === ,'   /  .ト.ゝ
    ̄ i  ヽ._八          ./ _/  ./!
      ト、   (. \        ./ ノ  /iリ
        ヽ/i\ \ __ ▽ __./ / ノ!/
          ヽiヽ   )::i_i::(  /
             Y:::::::∞::::::Y
  ((            !:::::::::'`::::::::i        ))
            /:::::::::::::::::::::ム
           /:::::::::::::::::::::::::::\
             ム;;:::::::::::::::::::::::::::::::::;ゝ
           `'マ;;;;;;;r、_,、r、;;;f^
              ';;;;;;;;|  |;;;;;;;'
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「ごろごろ~ごろごろ~」

とあるお休みの日の午後のこと。

娘は、なにが楽しいのか、畳の上をゴロゴロと転がりながら、
コロコロと笑い転げていました。

そんな娘を見て、お母さんも、心がころっと、楽しくなりました。

まだまだ、お父さんからの返事が来ない悲しさも。
ほんのちょっぴり、忘れることができました。

425  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:18:58 ID:c970524c
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そんなことがあった、とあるお休みの日の後日の午後のこと。

ゴロゴロと、遠くの方で雷が落ちているような、大雨がふっていました。

426  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:19:31 ID:c970524c
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       _」ヽ  /|            /./: : /_,'」/ | ヽ-、__|: : : : }  っ
      /   ゙V´∠イz‐、_       /イ: :l.イ/z|_ | ',≧、「: :./: |
    /  , ヘ,_/ ヽ∨ マ´ ;        .|: :| j.ィうヾ   うヾト :/ ィ.|
   //  // ^´  ̄ ^`ヽ丶,ゝ         |∧ハヽノ   弋ノl:/ノ,'l |
  _,//  〃  ,  ,    、ヽ、            lハ: :イ┬―――┤,イ/`´
  ,ノイ| l/           ヘ ;         Vl |      |レ」l
   小|   l/'ナ r 、ri,、ナナ| l |            /-v'      |´ 〉
    l从  /|  / /( ヽリ,ルリ           / ニ}|    _'三Y´ }
   ノハ小 γ::::lヽl  レl:::ヽ ;          ハ  jl    {  ハ |
      /l:::::,l::::|∞|::::!::::l             / {ノヽ__ハノ ヽl
       ヽ::::;ノ  ゝ;:::ノ ;           {   _} | | |\   ノ
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「雷さんこわいよぉ……はやくどっか行ってほしいよぅ……」

「うんうん、大丈夫。夜までにはきっとおさまるから、
今日は家でおとなしくしてようね」

雷を怖がって、泣きべそをかきはじめた娘を、
お母さんは、優しくなだめました。

本当は、お母さんだって、雷は怖いけれど。
娘のためだから、怖くないフリぐらい、
いくらだって、できるからね。

427  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:20:18 ID:c970524c

娘がちょっと怖くなくなったところで、
玄関の方から、戸をコン、コンと、
軽く叩く音が聞こえました。

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            _|    >'´:::::::`ヽ、    \
          / 」   //::∧::::l:::::::ヽ      ∧
         / :/ヽ―' _イ: / ∥::!::_:::::l\   /::: ',   /
       /:::::/:::: / , イ /:/  ||::::ト、`ヽ、:`ヽイ:::::::: l  ―
.      , ::::::::/:::::: |´: / !/   |Ⅵ V::|:ヽ::::::: |::::::::: |  \
.      /::::::::/:::/::::|:::/z±   |`|z_,V ハ::::::::/:::::::::::|
     /イ::::/:::/:::: ルzう''┤   |   チミヾ! V /:::::::::::::|
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        |::::::ハ::| ハ  ヽ- '     弋辷ン〃::::::::イ:::::::l
        |::: ハ V {             /:::::::::/ノ∧.|
       レ'   V::::ゝ、    o     /:::::::::/:::/
           V |  >r 、 __  イ:::イ::/:::/
.          Ⅵ  V  _ ヽ>―,イ/ |イ V__
           ヽ   / `ヽ、 /   ク| レ' ト、
  rぃ、ヽ-、        レ‐- 、 \ニ´ ̄ ノ   _ 〉
  rゝ`   _」、     /∨   \  \__/  「 }
  `ヽ、//'¨ \   〈  \     〉        |  \
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428  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:20:59 ID:c970524c

気になったお母さんが戸をあけると、そこには、
前に防空ごうで、娘がお友だちになった少女が、
ずぶぬれで立っていました。

「……すまん、せめて雨が止むぐらいまでは、
屋根のあるところで、雨やどりさせてもらえへんか?」

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           (
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     ノ.;;;.:./ |.:.:/ `V ハミ、  彳行V´.:/
   /.:.:.:;;;:.ト、.ノ:./  弋ヒ. ソ   ヒ .:ソノ.:/
  /.:.:.:.:/.:;;;:.:.>ー小、U          ハ
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  ヽ(   \.:.:./ ̄\  ̄\/__ノ\ : :/
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「と、とにかく中に入って!」

お母さんは少女を、あわてて家の中に入れてあげました。

429  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:21:31 ID:c970524c
「……ありがとうな。ボーッと歩いてたら、
アンタらの家にでくわして、
ついつい、ごめんくださいしてもうたんや」

お母さんはすぐに、お風呂をわかしてと娘に頼みました。

「……あれからな、オジサンの家に帰ったんや。
そしたらな、お家もお店も、全部燃えとったんや」

お母さんはとりあえず、ぬれた服を脱がし、
少女の体をふいてあげました。

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「……オジサンらは、何日も待ったけど、けっきょく帰ってこんかった。
近所の人に、オジサンも、オバサンも、イトコらも、
みーんな死んでもうた、って教えてもろうたんや」

お母さんは黙って、少女に娘の服を着せてあげました。

「……すまん、ホンマにありがとうな。
はじめは、近所の人の家で、ゴハンわけてもらっとったけど、
このご時世やろ? だんだん、おられんようなってな。
しゃーないんで、ずーっとブラブラしとったんやけど……」

430  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:22:09 ID:c970524c
「……雨が、ふってきちゃったんだよね?」

「うん、そうなんや……
ビショビショでさむいし、おなかもペコペコやし、
ウチ、こんまま死んじゃうんかなぁと思いながら、歩いとったら……
アンタらの家があってな、そんでな……」

そこまで言うと少女は、今までガマンしてきたものが
あふれてしまったのか、シクシクと泣きだしてしまいました。

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お母さんは、少女を抱きしめながら言いました。

「よくがんばったね、本当にえらいね……
あなたさえよければ、ずーっとこの家に、いてもいいからね」

それを聞いた少女は、とうとう号泣してしまい、
様子を見にきた娘を、ビックリさせてしまいましたとさ。

431  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:22:39 ID:c970524c
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それからそれから、そんなことがあった日の後日の午後のことです。

432  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:23:30 ID:c970524c
「ごろごろ~ごろごろ~」

「アハハッ、アンタはなにしとんや!
ゴロゴロ転がるんが、そんなに楽しいんかぁ?」

「うん、楽しいよ~いっしょにやってみよ~?」

「いやいや、ウチはええって。見てる方が楽しいわ~」

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              人:::::、             \/ />
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              ,.::'゙.:.:::::::::::::::::::::::::::::::::::ニ‐_     ┌─┐
             。゚.:.::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: ̄ミh、    .└─┘
             η.:.:::::::::::::::::::::/.:::V:::::::{:::::::::.゙:;:':.
           ∥.::::::::::::/.::::::/.:::::::::iヤvvヘ::::::::::.゙:;::,
           i{.:.:::::::::∥::::∥:::::::::::j:|   X⌒::::| ゙:
            ||i:::::::::::i{:::::::i{:::::‐ァ::7;    }ト、:从_j
.             ノリ:::::::::::{{:::::::jj::/.:://    ,.メ7人\`ヽ
           /.::::::::::::;::从:::::从彡'∠.,   〃⌒ハ::{::ハ
        / i{:::::::/:::i{::乂V::ハ〃⌒`  丶 ``}::}::}::::ノ
         { 乂::i{:::::人:::{`}::リノ `` r…¬  ィ:ノノ ´
           ヽ\` ー-ノノ ∨ミ=‐- r ´ ̄
                  _ ‐<`、 `ミミ {ノノ\
             _ ‐ ̄   ', ` {‐=彡ヘ...ノ
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すっかり仲良くなった、娘と少女。
しっかり色々な手続きをすませてきたお母さんも、思わずにっこり。
家族が増えて、良かったね。

433  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:24:01 ID:c970524c

あいかわらず、お父さんからの手紙は来ないけれど。

次に来た時は、この子のことも必ず書くね。

きっとビックリするだろうな、楽しみだな。

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                   _   /ヽ
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              _< __,,,フーL___」
             /       |      \
.           ィ-/      ,小 |.   l   ヽ
.            /     |  / ! l Ⅳ | |     l
           / /   !ィl´/ |Ⅵ マト、! !   |
            / .l .|   !ハL_  | `! __Ⅵ| |  |
.          / .イ  |.i レう´ l    う゛ヽ!、 |  /
         //. |!  lト、.代⌒|    i⌒ノバ / レ′
              |!  ヽ |! `¨´  '   `¨// ,'ノ |
.            |ハ  ` ト、   `ー'  .ィハ 从ハ!
             !  从_≧‐   ≦ ムハ」
             |.r┴く \>!  ト//¨ヽ
             /   \ヽ  /     \
             !      _\/>ァ┬―― -}
             |_, -ー fヽ! ̄ / /l/### ,イ
             ∧#####|     l####/ |
             | V####|      !#l#/   l
             ||∨###!     {#l/    ト=-、
.            ヽ!  ∨#lj      !#|     |X }
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どれくらい、先になるかは分からないけれど。
家族三人、いや四人で、楽しく笑えたら良いのにね。

お母さんは、心の中で強く、お願いしてみました。

434  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:24:46 ID:c970524c



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435  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:25:17 ID:c970524c
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六月

ろうろうと、雨が歌ってしたたって。
ムシムシ蒸し暑く、虫も多くて無視できない。

そんな頃です。

436  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:26:40 ID:c970524c
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  ヽ(   \.:.:./ ̄\  ̄\/__ノ\ : :/
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「せっかくの休みだってのに、外に出れへんのはあんまおもしろう無いなぁ」

「うん、そーだよねぇ。雨も強いから、窓もあけれないし、
あせがベトベトで気持ちわるいよぅ」

ムシムシした雨の日。
すっかりお家になれた少女と、少女がいることになれた娘は、
タタミにしいたむしろの上で、虫のように並んでへばっていました。

437  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:27:11 ID:c970524c

「うーん、たしかに暑いよねぇ。お風呂にお水いれてあげるから、入る?」

そうお母さんがたずねたところ、少女は首を横にふりました。


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  /.:.:.:.:/.:.:.:.:.>ー小、           ハ
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  ヽ(   \.:.:./ ̄\  ̄\/__ノ\ : :/
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「いや、ええわ。やっぱ風呂は、熱いモンやからええんよ。
熱い風呂に入って、カーッ!ってやるのが、ウチは好きやからね~」

などと、おじいちゃんみたいなことを言う少女に、娘が口をはさみました。

「アハハッ! なにそれ、おじいちゃんみた~い」

438  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:28:07 ID:c970524c
「オジサンにも、ジジくさい趣味って言われとったわ……
でもな、好きなモンを好き言うて、なにが悪いんやって感じやわ」

「うん、それもそうかも……お家の中ならだいじょーぶだけど、
外じゃあ、甘いの食べたいとか、おまんじゅう食べたいとか、
ケーキ食べたいとか、なかなか言えないもんなぁ……」

「おいおい、それ、全部甘いものやないけ!」

「あれー、そうだったかなぁ? アハハハッ!」

━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─

               (⌒⌒)                            r 、
           (     |il|                       ___! ヽ.r 、
           ゝ───-..... 、                  ヽ、 _  ヽ  i  ヽ、
         /.:.:.:::::::::::::::::::::::::.:.:.:`ヽ                     , ´ ̄ ヽ   i ヘ  ヾヽ、
         /.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:\                 ノ  = - ― - .∧  ヽ ヽ、
        /.:./.:/.:.:.:.:.:.:.:.:/ :/: : /^^^^ヽ.:.:.:\            <.  ´         ` 、 ゝ-≧ ~♪
      /.:.:/.:/: :/: : : :/: /: : /      ヽ.:.:.:.:|>        /             \  ヽ!` ヽ
      |.:./.:/. :/: : : :/: /: : /      |.:.:.:.|        /               ヽ.  ',   ',
      |: : /: :/: :.:.:./ ̄|::`メ、    ./ .|.:.:.:.|       ,     /    i i  、   .   .   ヽ
      |: : : :/ l:.: :./、_|/      ___ , リ.:.:/       {    i/、  !   ! ! i  !    .  !  ト、_ゝ
     ノ.:.:.:./ |.:.:/ `V ハミ、  彳行V´.:/        ∨   i/  ヽi  ./iノi/ヽ/!   .! ,'  .i
   /.:.:.:.:.:.ト、.ノ:./  弋ヒ. ソ   ヒ .:ソノ.:/             ヽ .i     i/     !    ,' /! i.リ
  /.:.:.:.:/.:.:.:.:.>ー小、U          ハ             .`r' === ===   i   // .!i/
  |.:.:.:./.:.::::::::::::::::::::(>  ⊂=⊃ . イ.:.:.:'.            八          /_ ノソi___!
  |.:.:/\.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:|\| > ー< ):.人:.:.:.}               >  ▽___ _.,-<´ !/
  ヽ(   \.:.:./ ̄\  ̄\/__ノ\ : :/                ヽ!ヽ、!__i/ム_ ヽ.
━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─

娘と少女が楽しそうに話しているのを聞いて、
お母さんもついつられて笑いながらも、
心の中には、チクッと痛みが走りました。

まだ子どもなのに、やりたいことだっていっぱいあるのに。
お腹いっぱい食べさせてあげることも、ロクにできないなんて。
好きなことを、好きなようにやらせてあげられないなんて。

お母さん、顔で笑って、心はしょんぼりでした。

439  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:28:53 ID:c970524c

「そーいやー、アンタは、なにが好きなんや?」

「えっ? 私? うーんっとねぇ……お母さん!!」

━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─

                    /\
                  /  /
                  \/ />
      、-ー'`Y <,___      </
  __≦ー`___ _二z<_     ┌─┐
   > 7  ̄、-‐ ´ ̄`'┴<    └─┘
 <之′Y´/        \
   >{  ,'  | 、 , ,.  ,.l  ,  ゙i
   | !、{  | 寸寸T ハT7} ィ,l
   ′Ji, ゙i ゙i ( >)  (<)|ハ|
    i⌒ヽ'(1. '''  _'  ''' ノ川/⌒)
.     ヽ  ヽx>、(_.ノ__,イ l |::::ヽ/
     ∧ 人lハ:::::l,三|:::/l| ,:::::ハ
━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─


そう娘は、満点の笑顔で答えました。
これには、しょんぼりしていたお母さんも、思わずにっこりです。

「アハハッ、やっぱりな~アンタはオカンのこと、ホンマに大好きやからな~」

「お母さんだけじゃないよ! 二番目はお父さんだし、三番目は――」

「……ウチか?」

「うんっ! そうだよ~!」

440  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:29:25 ID:c970524c
「三番目か~まぁしゃーないな。
ウチはアンタらのこと、けっこー好きなんやけどな~」

「うふふ、ありがと~でも一番はぜったいにお母さんだからね~」

「ちぇっ、悔しいなぁ~もう」

━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─

               !`ヽ
               l   \___    __
          ,. ヘ    ヽ:`>'´    `ヽ
         /: : : :.\   ハ、 _____ヽ
         /: :  : : : :.´ヘr.'´: ハ:ヽ: : : : :`ヽ   っ
      /:  . : : : : /: : _,/:: :/  い: : : :.',
         .: : : : : :./:ィ'´:/ : /   l:.ト、: : :l : : :'.   っ
       l: : : :l: : : : :l: :///     l/ ヽ: :}: : : :.l
      |: : : l: : : : :.ィ'ラ示       x=ミ }: /: : :!: :|
.       |: : _|: : : :〈 代::ハ     んハ|/: : : :ト. :!
        l:.:.{ |: : : : l 辷ソ      {ゝ-:ハ/l: : :./ '.:l
      l: :`l:.l: : : | :;:;:;    .   ー' ム!: :./  |l
      |∧:| l: : : |、   ‐-   :;:; /ーr ヽ
.        l/ `い: : :|:`: ..、 ____,.   ィ ど´ /
         ∨ヽ:.!`y'ノ  ノrヽム,(´   ノ
           /:.7ヘノ { /  r‐'/:.〉  イ`i
        /l: :| !て V  rイ  !/ヽ./  !
         l !:.{ ! !ーr イ l  / /    ト、
         | l:.| l ! ! ! l ヽ、     | }、
━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─


すぐ近くで、二人に好きと言われて。
お母さんは、にっこりを超えて、ちょっぴり恥ずかしくなってきました。

でも、あえて顔には出しません。
恥ずかしいよりも、うれしいの方がずっと勝っているからです。

441  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:30:00 ID:c970524c

「……でも、アンタはホンマにええな、ウチはうらやましいわ」

「んっ? うらやましい?」

「ああ、うらやましいわ。
好きなモンを、ちゃーんと好きって言えるうちに、
好きって伝えられるんやからな。
ウチはもう、ウチのオカンらには、言えれへんからなぁ……」

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           (
           ゝ───-..... 、
         /.:.:.:::::::::::::::::::::::::.:.:.:`ヽ
         /.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:\
        /.:./.:/.:.:.:.:.:.:.:.:/ :/: : /^^^^ヽ.:.:.:\
      /.:.:/.:/: :/: : : :/: /: : /      ヽ.:.:.:.:|
      |.:./.:/. :/: : : :/: /: : /      |.:.:.:.|
      |: : /: :/: :.:.:./_ノ|::`メ、    \ |.:.:.:.|
      |: : : :/ l:.: :./、_|/      ___ , リ.:.:/
     ノ.:.:.:./ |.:.:/ `V ハミ、  彳行V´.:/
   /.:.:.:.:.:.ト、.ノ:./  弋ヒ. ソ   ヒ .:ソノ.:/
  /.:.:.:.:/.:.:.:.:.>ー小、           ハ
  |.:.:.:./.:.::::::::::::::::::::(>   ` ´  . イ.:.:.:'.
  |.:.:/\.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:|\| > ー< ):.人:.:.:.}
  ヽ(   \.:.:./ ̄\  ̄\/__ノ\ : :/
        /: : : l   : : : : : : :|  : :ヽ
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そう言って、さびしそうな笑顔を浮かべた少女の姿に、
お母さんは思わずぎゅっと胸がしめつけられました。

そうでした。忘れようとしていた、あまり考えないようにはしていたけども。
この子は、なにもかも失ったから、この家に来たのでした。

442  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:30:32 ID:c970524c

お母さんは、思わず少女を抱きしめようとしました。

「……ぎゅーっ!」

━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─


      ≧⌒`丶イーヾ-イ≧=-
     7   ≧ミイ         ヽ 、
   イ    ミ//            ヽ
        //    \l     l l/  ト
   /    {{   |/| /|/ヘ  lヽ|\|ヘ 从
       ヘ  /⊂⊃   \|⊂⊃ リ l
  从    ゝl  ト U     _   U /ソリ
       从  ミx._   /:::::::l   彡イハ从
   イ   / ゝ ト    /:::::::::l   /
   ハ/ }∧ /二二二二二二二二|
       //三/  ̄ ヽ三三>ヘ┐
     /;;;;;;;l三 |、_丿三ニ(   `j
   /;;;;;;;; / |/::::::::/: : : : : : |::::::::::ヽ
━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─


けれど、それより先に、少女が娘に抱きついていました。

443  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:31:18 ID:c970524c
━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─

                       __>\| L_
                     / :  ̄`ヽ: : /¨ ̄: \
                    /: : : /ミヽ V r勿\: : : :\
                  />-─: : : : ̄ : : : : ─-<、: \
                 //: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : \: :\
               //: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :ヽ : \
              ∠/: : : :/: : : /: : : : : : : : : : : : : : : : : : : :ヽ: :\
              //: : : :/: : : : / : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :i: : : \
               //: : : : i: : : :/{: : : : : : :ハ: : : : : : : : : : : : : : : : :i: :< ̄
                //: : : : : ! : :/ {: : : : : : ハ: : : /: : : : : : : : : : : : i: : ヽ
                 ソ i : : : : ll: :/u !: :!: : : :! ',: : :.ハ: : : : : : : : : : : : !: : <
                 l: !: : :/ー/┼‐ヘ:j´、: : !ヽ '; : ハ: : :.j: :´: !: : : : :i: : :/
                 |: !: : ′v__,.二_V ヽ: :!  `V、_!: :j: : : /‐7: : :!: : |
                 |{イ: :; 〃トzイ リ  ヽ;! ィ=-、 V`|: : / ̄: : : { : : !
                  ハ V ! ⊂ー='        {て´ソヽ !: :!:-‐、:∧:.{: : :|
             /ハ ',////      `‐とつ´!: !/´ }: : ヾ!: :/
             ´  >{         ′  ////: !  /: : : / : :|
             -‐´. .ハ                 レ _ イ;ハ:/ : : 〈
           /. : . /.:丶\   _          //: .V: . ヽ : : : |
             /: . : . :ハ. : 丶 \   ̄ ==    イ:.レ: . : . : . :ヽレル'
━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─


「……一人じゃないよ、私たちがいるよ……!」

「……ああ、うん、そうやったな……
あんがとな……アハハ……」

一番はじめに、少女が笑顔のまま泣きはじめました。
次に、娘がもらい泣きだしてしまいました。
お母さんも、いつのまにか涙ぐんでいました。

みんな泣いてしまったけれど、悲しくて悲しくて、
とてもやり切れなくて泣いたわけではありません。

お父さんからのお手紙は、まだ来ないけれど。
お返事を出す時は、このことを書きたいなぁと、お母さんは思いました。

444  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:31:49 ID:c970524c
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それから、少し後。
六月の、終わり頃のことでした。

445  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:32:30 ID:c970524c
━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─

        ( ⌒ヽ、
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       (:    ´  )
      (´⌒::::`    )
     (    (                ;   人;_| |
     ´   ⌒    )           |.」.| .| 」| |人;;从;;;;:
    (´::       )  ..:)    ;   人;;从;;| .|-l .| .|. l⌒l‐┐
    (:::::::       ;;人;;;   人;;从;;;;:|_:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::.|
(´⌒;:⌒`~;;从;;人;;;⌒`;:(´⌒;:⌒`~;;  .l |:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::|人;;从;;;;:(´⌒;:⌒`~;;从;;人;;;⌒`;:(´⌒;:⌒`
;`(´⌒;;:⌒∵⌒`);(´∴人;;ノ`;;`(´⌒;;:⌒ l | .|::::::::::::::::::::::::::::::::::: | ,,| ̄ ̄ ̄;`(´⌒;;:⌒∵⌒`);(´∴人;;ノ`;;`(
F√i-ュ| ̄|明-ュ| ̄L―┐-ュFl-ィニニユ 「 ̄|::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ニ´t|    /F√i-ュ| ̄|明-ュ| ̄L―┐-ュFl-
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またまた、お母さんたちが住んでいる町に、バクダンの雨がふってきました。

花火のように、ふり落ちてくる火の玉が、
お母さんたちの町と、人を、赤く染め上げていきました。

446  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:33:04 ID:c970524c
━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─
                   、_
           _____     \:ヽ、                 ,ィ
           \: : : :;: ̄::`=:‐-ヽ:.:`:=:‐::─::─-.、_      / '--ァ
             >'´.: : : : : : : :;/|: : :i:: : : : : : 、:: : : :`ヽ、   ヘ   '-ァ
             /:/..: : : : :/: :.;イ |: : |、::. : : : : : :、:: : : : :..\   ヘ=-┴
           /:/. . . . : : :/: :;/ |  |: ::| 丶: : : :.、::.:\::: : . . ..ヘ
            '´/. . . . . . _:_,'_;ノ  |  |: ::|`ー─-: . i.. . :.\.. . . ..ハ
        ´`ヽ/: : : : /: : :/: ::/   |   |: :|   ∨: : :|:: : : :、::\:.: : :}
           /:;': : ::/: : :/'|:.:/   |  |: :|   ∨: :ト、:: : .:ハヽ:ゝ:: :|‐-、
        /::/.: : ::l: : / |/     |  ヽ:|  u. l:\|:::\: : :|::: : : ::|
         /:/: : : :::|: :∧ ,.=.、 .. . . . . . . ,.=.、、 |:: : : : :|::\:|::: : : リ
       '"|: : : : :::|:/::::} :|l j:| : : : : : : : |l j:|; |:: : : :i:|:::::: : : :i::/
        |: : : :.:::::;/:::,| ゛=" : : : : : : : :.゛=" |::i: : :|:|、:::::: : :l/
         |: : :/|/|:.( |              |::|: : :|:| ):::: : :|
          |:/    |:::`l、 u.  l ̄ ̄  ̄ヽ   |::|i: :.:|リ'::::::|ヽ:|
          ´      |: :::::::ヽ、_|___.. ._,}_ノ|/|: : :|::::::::::|
                `ヽ:;/|:/ヽ::__;;〉 ̄ ,{;/ ,/ ヽ:/::::|\:|
        ___r===ュ__,ィ'´~ ̄`/'`ヽ"__,/  / ,ィ'⌒ヽ、
       | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| ̄|: /__,/'|o|:\_,//'" ̄`ヽ.〉
━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─


空しゅう警報の音で飛び起きたお母さんたちは、
あわてて起きて、外へ飛びだしました。

逃げ道はすでに、逃げる人、人、人たちで、いっぱいで。
遠くの方では、赤い火がゴウゴウと燃えていました。

447  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:33:34 ID:c970524c

「は、はやく逃げないと……!」

「どこへや!? 山の方か!? それとも、防空ごうの方へか!?」

━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─

                ,.-‐==‐-
                   ん::: '´
              人:::::、
                    >ー≦:::::::::ニ=- _
              ,.::'゙.:.:::::::::::::::::::::::::::::::::::ニ‐_
             。゚.:.::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: ̄ミh、
             η.:.:::::::::::::::::::::/.:::V:::::::{:::::::::.゙:;:':.
           ∥.::::::::::::/.::::::/.:::::::::iヤvvヘ::::::::::.゙:;::,
           i{.:.:::::::::∥::::∥:::::::::::j:|    /:::::| ゙:
            ||i:::::::::::i{:::::::i{:::::‐ァ::7;  u. }ト、:从_j
.             ノリ:::::::::::{{:::::::jj::\.:://    ,.メ7人\`ヽ
           /.::::::::::::;::从:::::从彡'∠.,   〃⌒ハ::{::ハ
        / i{:::::::/:::i{::乂V::ハ〃⌒`  丶  }::}::}::::ノ
         { 乂::i{:::::人:::{`}::リノ u..⊂=⊃ .ィ:ノノ ´
           ヽ\` ー-ノノ ∨ミ=‐- r ´ ̄
                  _ ‐<`、 `ミミ {ノノ\
             _ ‐ ̄   ', ` {‐=彡ヘ...ノ
          _,. 冖=- .,_  } !   {{
━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─


お母さんは、走りながら考えて、でも余裕なんてなくて、
すぐに答えなきゃいけなくて、思わず泣きそうになりながらも、
後を一生けんめいついてくる二人に、叫びました。

「防空ごう――あの時入った、防空ごうにいきましょう!!」

448  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:34:05 ID:c970524c

それからお母さんたちは、一生けんめい走って、走って、
なんとか防空ごうにたどり着きました。

でも、とっても残念なことに、中は人でいっぱいで、ぎゅうぎゅうでした。

━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─
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━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─


「もうここは入れない! ヨソへ行ってくれ!」
「戸を開けるな! 敵に気づかれたらどうするのよ!?」

お母さんは、なんとか子どもたちだけでも……と頼もうとしましたが、
近くにバクダンが、落ちてきて。
頼む余裕もなにもなく、泣く泣くお母さんたちは、また走り出しました。

449  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:34:59 ID:c970524c

「ねぇ、お母さん! どこに逃げるの!? ねぇっ!?」

「どこでもええ! とにかく走って逃げるんや!」

━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─


          _   _,
       ___,> Y´'ー-、
      _>z二_ ___`ー≧__ ;
      >┴'´ ̄` ‐-、 ̄ 7 <
     /        ヽ `Y′之>
.    /  ,  l、 、 , 、 |  ヽ }< ;
    l ,ィ {7Tハ T寸寸 |  }ノヘ
     ,ヘ, |(○)三(○) / / ,/ /
    '、 `| u. ヽ   ゚。「)'/|/ / ;
      \ヽ、_ c=っ u._,.ィT/=/
      < l 7Eニ::ィ1    〉
       ゝ'イ/ヽ::::` 、 /
         i´ ̄ `ヽ::|
        j|       <
       /    ヽ  \
━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─


娘と少女は、すでにクタクタで、泣きべそをかきながら、
それでも一生けんめい、お母さんの後をついてきていました。

お母さんも、なんとかどこかに、別の場所に、安全なところに。
三人で逃げようと、せめて娘たちだけでも逃してあげようと。

同じように、逃げまどう人たちの間をなんとかすり抜け、
ときどきかき分けながら、ずっと走り続けました。

一生けんめい、死にものぐるいで、走り続けました。

450  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:35:30 ID:c970524c
━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─
戈/リ   戈____
∨!_|三≧=三二戈!.::|戈_
/i ̄\       |>! =<≧=― 、____
\|二≧ト、    弍_人_ノ: : : : : / / / ̄:|戈_l弍_
__人∧  ∨ ̄!                  ∧ノ≧-<二>,=ァ
 \! \_/ ̄!.| ̄\            . : : ::|: : : : : : |:::ト==_/
≦二 ̄i i .:戈≧≦ ̄>、       . . ::::::|: : : : : : |:::|戈/
戈≧イ ̄\_!_人_>' \ ̄\   ..: : ::::::::|: : : : : : |:::||/l|
 ̄\/ ̄ _!全ァ、  ̄≧==-、_∧_: : : :::::::|: : : : : : |:::|У|
\  \_./ // / ̄ ̄\`ヽ!≧ァ、__>、::::::|: : : : : : |:::|_|
 ∧__/./__ノ  ! ̄\∧.人_| ̄》>< ̄∨\三二≦三\!__
 ̄ ̄ ̄\! \ノ ̄ ̄ ̄|!\  ∧_∧_!/ ̄>、 \.,、三三,、::::\
      \ |     ./  ∨  /.> \`ヽ  ||ーく .〉:i:i:i:i:i:i:\_!
___      \    / \   \〈:::〈   ≧ノ  ∧| ̄ ̄!\≧、:i:i|:i:|
    >、    \./   |\   \_>―イ  |/\/>夕三∧戈!
  /   :\    /   .∧_≧、_>〈 ̄>、リ   >!夕\三\:\
_/ ̄ ̄!__ >、./     l∨\  /`ヽ,人__∧―<_,.人./\三:∧:::\
\___.>'´   \  ,,,,人_/ ̄〈   .|  \\ \__>/|   \三\::::>、
/  | /     .......∨     >、 . \人   \\::::::/   \  /\三:\!_∧
_   人 \_...::::::::::::.〈         >、|\\   \\|:::::....  >――\三;≧、\
━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─


――いったい、どれぐらい走って、どれほど逃げたでしょうか。

やがて、息が切れて、体力も尽きて、倒れこむようにしゃがみこんで、
でもそこは、すでに火で焼かれていて、だからこそ、とりあえず安全な場所で。

やっと、やっと、休めると、逃げることができたと、
これでもう安心だねと言おうとして、後ろを振り返ると――

451  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:36:12 ID:c970524c

……娘と少女の姿は、どこにもありませんでした。

お母さんは少しのあいだ、何が起こっているのか、
さっぱり分からなくて――
すぐに何が起こってしまったのか気づいて、叫びました。

━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─
             / /   /     / ,    / ハ     {     ヽ   \ヽヽ
.           /  ,    /       / /   //  l      l|      ∨   ハ}  '.
        , '′ , ′   /       / /   /´    |     八 、   |  /    l
    ー=ニ´ -‐¬′   ,     / /   /      l|  l    \丶、 |/     l|
           /     ,′     /〃/  /       |  }      丶 \}       | |
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         l /   l|   ! |    | キ{     }        }    い ∨       , 八
          j'   {   |∧    }从}j  r‐、j        j   ,ハ}/}     //  丶、
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           ,′'.     { \{'r て_ r~J          `て ハ〈` ,    //
           ,′ ',      \_j{   }i    __, -- 、_    }} い/    〃
            /    、     八   {{  ゚ Y´ ̄`⌒ヽ   {{  }′   /′
         /     `、    ,′{丶 リ    、L.. -‐‐tノ   }i 。イ    ,′
       /       、   ∧  \ `〉。、             c彳〃  /}
                   `、 { ヽ   ∨  {>-┐ --‐゚ r</}/  / /
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泣き叫びながら、必死で、娘と少女の名前を呼び続けました。
ちょっと遅れてるだけ、まだついてこれてないだけど、
必死に思い込みながら、名前を呼び続けました。

けれど、どれだけ二人の名前を呼んでも、叫んでも、
二人が返事を返してくれることは、空しゅうが終わり、
あたりが静まりかえり、やがて夜が明けはじめるまで、ありませんでした。

452  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:36:42 ID:c970524c
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  __,」L__」|____」L 三三三`    ,.        `      }「 ̄ ̄|「 ̄ ̄ ̄|「 ̄ `    ,.
.    _||     |L    ̄l|「 L l「 ̄            .        `|ト、 _」L____」L:._
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……ようやくあたりが、少しだけ見えるようになって。
お母さんは、逃げてきた道をたどって、二人を探しはじめました。

逃げている時は、気づかなかったけど、
命があったものの跡が、そこらかしこに残っていました。

本当は、とっても怖いけど。お母さんだって、今すぐに逃げだしたいけど。
それでも、命の跡の中に、二人の姿がありませんようにと、
本当に、けんめいに祈りながら、歩いて、歩いて、二人を探しました。

453  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:37:15 ID:c970524c

……探しはじめてから、どれくらい時間がたったでしょうか。

ケムリでも、吸ってしまったのでしょうか。
それとも、火に巻かれてしまったのでしょうか。
あるいは、両方でしょうか。


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         'ーL|‐|-、;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;、;;;;;∨ \;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;  \
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倒れかかった電柱に、もたれかかるように。
黒くすすけて、それでも手をかたく握りしめながら、
娘と少女が倒れていて――

454  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:37:47 ID:c970524c



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455  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:38:19 ID:c970524c
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七月

死が、近づいてくるような。

それとも、死地にむかって、歩いているような。

そんな頃です。

456  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:39:21 ID:c970524c
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あれから、どうやって家に帰ったのか。
あれから、どのように二人を連れて帰ったのか。
あれから、どうやって二人を見送ったのか。
あれから、どのように息をして生きているのか。

もうお母さんには、よく分かりません。

涙も出しつくしてしまったのか、
二人がいた時のことを思い出しても、
薄くて細い水てきが、つーっとほおを、つたうだけでした。

457  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:40:27 ID:c970524c
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一日中、ボーッと天井を見つめて、死が近づいてくるのを、
ただずっと、亡霊のように、待ち続けているだけの日々。

それでも、一日何も口にしなければ、お腹もすくし、ノドもかわきます。
生きるために、なにかを食べて、お水を飲んで、また死を待ち続ける、のくりかえし。

いっそこのまま、またバクダンが落ちてきて、
思い出がつまったこの家ごと、跡かたもなく、
こっぱみじんにしてくれないかと、思うことさえあります。

お父さんからの返事は、まだきません。

458  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:41:00 ID:c970524c
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あの時、防空ごうに行こうと思わなきゃよかった、とか。
あの時、ちゃんと二人の手をつないで逃げればよかった、とか。
あの日、たとえ火の中でもいっしょにいればよかった、とか。
そうしたら、一生いっしょだったと言えた、とか。

後に残るは、後悔ばかりで。

お母さんは、ただただ、悲しくて悲しくて、しかたがありませんでした。

459  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:41:31 ID:c970524c
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そんなこんなんな日々が、何日か続いた、ある夜のことでした。

460  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:42:01 ID:c970524c
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夜のとばりもすぎたころ、ふと、お母さんは目をさましました。

誰かが、玄かんにいるような気がしたからです。

こんな夜に、誰かが来るわけでもないのにと、
一応行ってみると、やっぱりいませんでした。

461  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:42:32 ID:c970524c
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気のせいだったのかな? と思い、また寝ようとすると、
今度は、台所の方で、誰かがいる気がしました。

気になっていってみると、やっぱり誰もいません。
でも、誰かがいる、という感じだけは、なんとなくするのです。

お母さん、さっぱり意味が分かりませんでした。

462  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:43:03 ID:c970524c
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               | |l                                   l | |
               |_,,ソ                              !,|_,ン
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それからのことです。

家にいる時は、常にどこかに、誰かがいるような気がするようになりました。
はじめはあまり落ち着きませんでしたが、ふしぎとすぐに、なれました。

なぜだか分からないけれど、誰かがいるような気がする時は、
ふしぜんな状況なのに、ふしぎと落ちついた気もちに、なれたからです。

463  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:43:33 ID:c970524c

これは、いったいぜんたい、なんなんだろう?
お母さんは考えました。

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       , -‐: : : : ̄ ̄``<「 ̄ マ
.     /: : : : : : : : : : : : : : : :|    \
.    / : : : : : : : : : : : : : : : : : |      ト 、
   /: : : : : : : : : : : : : : l: : : : : :|___/ト、ヽ
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   |: : : : : : : : : : : : : : : :|: :|: : : : : :|: : : :l: |: ヽ
   |: : : : : : : : : : : : : : : :.| :|: : : : : :|: : : :|: |\|
   l: : : : : : : : : : : : : : : : l.:|: : : : : :|: : : /: |  |
.   ',: : : : : : : : : : : : : :/~.l |: : : :l: :|: :/l: :|
.   ',: : : : : : : : : : : : :ヽ ',|: : : :|:.:|イ  `/
    ヽ: : : : :.l: : : : : : :l:`7|: : : :j: :| {
.    Ⅵ: 、: :|: : : :.|: : |: / |: : :./|: lノ
     い: ヽ|: :. :λ: :レ‐-|: :./‐レ′
       ヽ ハ: :./气 |、_ | /
        ツ V__`l`ヽ`く
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どうせロクにやることはないので、
考えて考えて、考えて……お母さんは、思いました。

これは、二人が、お家に帰ってきたんじゃないかって。

464  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:44:48 ID:c970524c
七に七をかけて、四十九日、という言葉があります。

これは、死んだ人が、死地の先のいき場所を決めるまでの、
大事な期間なのだそうです。

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             `i                           i´
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    ┌一_ニl l二ニ─‐`‐-ニ二二二二二二二二二二二二ニ-‐´‐─ニ二l lニ_─┐
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    ||    | ||  | |┼┼|| ̄r;ュ ̄ ,ハ ̄圖圖 ̄,ハ. ̄r;ュ ̄||┼┼| |  || |    ||
    ||    | ||  | |┼┼|| / lヽ 彡ミ´ ,,,,, `彡ミ / !ヽ ||┼┼| |  || |    ||
    ||    | ||  | |┼┼|| L |,ノ ミ彡ミ / , ヽ ミ彡ミ L..|,ノ ||┼┼| |  || |    ||
    ||    | ||  | |┼┼||  ヒヨ   ミ;シ | ,.(.)., | ミ;シ  ヒヨ  ||┼┼| |  || |    ||
    ||    | ||  | |┼┼||   ||   }l{ | l!_ _il | }l{   ||   ||┼┼| |  || |    ||
    ||    |_||  | |┼┼||   ||   }l{ \>二</ }l{   ||   ||┼┼| |  ||_|    ||
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    ||    | ||  | |┼┼||   ||   |@。 二ニ二 。@|   ||   ||┼┼| |  || |    ||
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    ||    | ||  | |┼┼||,(二l^l_) | )(  )|(  )( | (_l^l二),||┼┼| |  || |    ||
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    ||    | ||  | |┼┼||__}呂{...|(◎)=(l^l)=(◎)|...}呂{__||┼┼| |  || |    ||
    ||    | ||  | ニニニ |──┬┴─────┴┬──| ニニニ |  || |    ||
    ||    |_||  | |橆橆||  中  _ll_.┌t⌒t┐ _ll_  中  ||橆橆| |  ||_|    ||
    ||    |_||  | |橆橆||  〕〔  }H{ {ニ器ニ} }H{  〕〔  ||橆橆| |  ||_|    ||
    ||_   | ||  |  ̄li二」 .]-[.  |盥| \_/ |盥|  ]-[  |二!! ̄ |  || |   _||
       ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ヒ三三三三三三三三三三三三三三三コ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄
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死んじゃったのは、不幸せだけど。
死んじゃった人が帰ってくるのは、幸せで。

けれど、死んじゃった人が、
またどこかへ旅立ってしまうのは、やっぱりすごい不幸せで。

お母さんは、喜んでいいのか、悲しんでいいのか、よく分からなくなってしまいました。

465  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:45:18 ID:c970524c
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                 {     :| {.   ̄ `〉'   Y´  ̄    〉./ /
              |   ヽ| ゝ  ̄ソ    {   ̄~  / //
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それに、どれだけお母さんが、誰かがいるような気がするところで、
どんなにごめんねとあやまったり、娘や少女の名前を呼んだり、
ごはんが出きたよと声をかけても、その誰かは――
いや、二人は、お母さんの呼びかけに、こたえてくれることはありませんでした。

二人はただ、何も言わず、姿も見えず、そこにいるだけでした。
少なくともお母さんには、そう思えました。

466  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:45:49 ID:c970524c

二人がそこにいるのなら、お母さんもそこに行こうと、思ったこともありました。

けれど、誰かがいる気がするところで、ずっとずっと、考えて……
結局、それはやめることにしました。

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               ,  '´: : : : : : : : : : : : : :`丶、
              /: :___ ,、_;; ―― 、: : : :\
             イ: :./   _/ \     l: : : : : \
.     ―――ァ'´: :. :,ィ   / ノ―-.l     ト、|: : : : : :ヽ
        _//: :. :彳   _ イ: : ハ: :.\     |‐.!|: : : :|: : !
     -='- "/: :. :. :./j  /: :./: : 小: : : :\  ノ: :!|: : : :|: : |
        /: :/: : / レ': :/: :イ: :/ | ト、__:| :\ }: : :|: : : :|: : |
.       /: :/: : /: :. :. :/_; 斗'7  ||: : : :「ヽ `|: : :|: : : :|: : {
.        /: :,イ:. :.|: :. :. :イ / |,'    |\ : :|\\: : |: : : :|: :∧
       /./ !:.: :.| |: :. : :|/_z=ミ   ! ヽ卞z≧、: :!: : : :!: ,' \
.      / '  |: : | ト,: : : :!イ7¨)ヾ     ´廴ハヾV: : : :j: :|
.    /   !: :. :l |ゝ、: :ド 」。、::d      ,!辷d イ: : : /):.!
.         ! ∧ `!ヽ\!( ヽ‐'"/// `´"'(_ ) : : :/7: :|
         j/ ヽ: : :>‐}`´     '      / : :// ヽj
        /   \: :: :ム.ニァ- 、   '`  _,  イ: : イ/
.             \: |_{   マ ̄´/ // /\
              / 乂  \  ヽ-'´  / `゛ヽ、 }
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いつかはぜったい、いっしょにはいたいけれど。
少なくとも、二人が死地の先へ行く日までは、生きていようと思いました。
二人を見送ってから、「それから」の日々をどうするか、決めることにしました。

今のお母さんには、そうするしかありませんでした。

467  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:46:19 ID:c970524c
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もしこれが、お母さん自身が死に近づくまでの、夢かまぼろしだと言うのなら。

あるいは二人が、死地におもむくまでのしたくをしているのであれば。

そのどちらでも、お母さんはかまいませんでした。

ほんのちょっとでも、二人と一緒にいられるのなら。

468  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:46:50 ID:c970524c

お母さんは、やっと少しは、元気を取り戻して。

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           /´____゚ ヽ___ 。ヽ
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     '、 (    `ー―‐‐―‐‐'"7.´_,)=' '__ ノ , '
     `ヽ、_  ` ー―――‐‐`´―‐ ¨_,. '
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ホコリをかぶった仏だんをキレイにして、毎日、ご飯をおそなえするようにしました。

お母さんの近くから、遠くのどこかへ行って、いなくなってしまうまで、
おなかいっぱい、食べられるように。

469  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:47:24 ID:c970524c

それから、お母さんはこう思いながら、毎日祈りました。

お母さんは、いっしょには、いけれなかったけれど。
二人はいっしょにいけれて、良かったね、と。

不幸の中にも、幸せがあるとするならば。
せめてもの救いになったねと、お母さんは思いました。

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                              ∨     !   / ,. /
                __,,...--‐‐ -  、    V   ム-‐'‐.' /
              , -'"               ``丶、..V  /      , '
            ,                     >、     _/
              /                  K /天 ̄
         /                   !レ   、 ` 、
        ,-'"                /      !   /.i  丶
    , -'" ,/  /         /   /      !.  /i .i   丶
_,,..-‐''_,,..-‐''/ /          /   /  .   /  / ! i     ヽ
'''""~.    .//           / /      /  , ',_  ! !    ト、ヽ
   _,..、-''"     !   .     //        / , ' /-", ソ 仆、  !
  /         !        /       i / ./ ;;レi /   !    !
. /  _,,..-,'   ,イ   i     / /       i !,'  i ;;;i !  /
/, -'". / //    !    //./      /! .i   、_ノ ヽ /
"   // /   ノ!. カ     " /   /! . / .! !      ,ゝ
   〃  ./. .//../ i     /  / / ./  ! !    、_ /!
      // / /  !    ! /  _//   i ./     / i
         /ノ   !   ル.'   /i''!   _''    /`、!
            !  /! / i / !!   i    ̄
            ノ/  レ  !/ノ ''  ,'゙⌒`´ヾ
━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─


せめて、次は、一生いっしょにいれたらいいね。
お母さんと、娘と、少女と、お父さんとの、四人でね。

お母さんは、一生けんめいに願いながら、祈りました。

470  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:47:55 ID:c970524c



                      ●


                      ●


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471  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:48:25 ID:c970524c
━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─
i    /    / |  \|/
|       /   \/
   /   / ,へ      _--                         (
\   /   Υ  -─  ̄                          (´~
  ヽ    -‐  ̄                            (´⌒´"
.  |   ── ──── ─ ─── ‐‐ ‐         ゝ-'´⌒´ ( (,,,,,
  /    へ、                      (´⌒''´`´   (,,,,,´(⌒ヽ
/   ゝ   ヽ    ヘ                (´~' (´( (⌒` (´⌒´
  *\  \    ヾ        ヘ            ̄ ̄`ー─── ─- - ---
  ヾ *    \     ヽ        ヘ
l   \ △     \     ヽ           ヘ
|   、     .,へ             ヽ              丶
    t     Υ  \     \       丶
.|    ヽ     .,ゝ、          \     ゝへ、
.|     \   l   l  \       \  l   l
 |    \   ` ´ /\\       ヽヽ /
 |            | / |\\         丶     /\ /\
 |      \    \|/  |  \         /  /\  \
 |       \   ヾ \ /     \       |    |   |   |
  |        \      `´         \     \   !         !
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八月。

ハチがブンブン、飛びかって。
八時の朝には、もう暑くて。

そんな頃です。

472  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:48:56 ID:c970524c
━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─

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       . : ´ ̄       ̄` : .
       / . -‐   ̄ ̄  ‐- . \
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  ____j{  /xx\xxxx||xxxx/x∧  廴___
 /  ノ  xxxxxx\xx||xx/xxxxxx  、  ヽ
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│ l  '⌒ヽ l l |_ .'⌒ヽ | l l  '⌒ヽ l │
│ l 乂_.ノ l l | l 乂_.ノ 「| l l 乂_.ノ l │
│ ヽ ______ '´ `<_'‐'‐'_> ´ ヽ ______ '´  |
│               ̄               │
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ラジオから、戦争の終わりを告げる放送が流れた頃。

お母さんは、お父さんが、娘と少女がいなくなったのと同じ頃に、
亡くなってしまっていたことを、知りました。

お返事は結局、来ませんでした。
お父さんのかけらも、何も戻っては来ませんでした。

473  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:49:27 ID:c970524c

けれど、今日だけは、泣くのはやめようと、お母さんは思いました。

だって今日は、四十九日目。

━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─


                   _   /ヽ
                _/  \__/   \
              _< __,,,フーL___」
             /       |      \
.           ィ-/      ,小 |.   l   ヽ
.            /     |  / ! l Ⅳ | |     l
           / /   !ィl´/ |Ⅵ マト、! !   |
            / .l .|   !ハL_  | `! __Ⅵ| |  |
.          / .イ  |.i レう´ l    う゛ヽ!、 |  /
         //. |!  lト、.代⌒|    i⌒ノバ / レ′
              |!  ヽ |! `¨´  '   `¨// ,'ノ |
.            |ハ  ` ト、   `ー'  .ィハ 从ハ!
             !  从_≧‐   ≦ ムハ」
             |.r┴く \>!  ト//¨ヽ
             /   \ヽ  /     \
             !      _\/>ァ┬―― -}
             |_, -ー fヽ! ̄ / /l/### ,イ
             ∧#####|     l####/ |
             | V####|      !#l#/   l
             ||∨###!     {#l/    ト=-、
.            ヽ!  ∨#lj      !#|     |X }
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二人が、そしておそらくお父さんも、次のいき先を決める日なのです。

べそべそ泣いて、見送るのは、イヤだと思いました。

474  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:49:57 ID:c970524c
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いつも通り、仏だんにご飯をお供えして。

えんがわに座って、ふと、八月の空を見上げた時。

475  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:50:29 ID:c970524c
━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─
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   , ⌒ヽ:::::::::::::::..      . .. ...::.:::    ____ .:::...
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    (   :::::::::::::::::::....     r'´_,.-‐-、''ー、 :.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.....
     `‐' ヽ:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.::.. ,ィ'´''"´    レ'"´ :.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.::....
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       ヽ___ノ´ ̄ ̄`ー、         : : : : : : : : : : : : : : .
                 ):::..        : . : : : : : : : : .
━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─


さわやかな風が、お母さんのそばを通りすぎて。
娘と少女が、ケムリのように、空にまい上がった、気がしました。

まい上がった風の中で、二人が笑っている、ような気がしました。
少なくともお母さんは、そうであるように、強く強く、願いました。

お父さんも、たぶんもう少ししたらいくからね。
私も、いつかそっちにいくからね。
だからそれまで、待っていてね。

心の中で、何度も何度も、声をかけました。

476  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:51:18 ID:c970524c

一月から八月まで、日々は過ぎて。
お母さんは、何もかも無くしてしまったけれど。

━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─
ヾ.: ; ;ヾ ; ; :ヾゞヾ., .ゞヾ;ゞヾ;;;       `                 ; ゙ィ; ; ッ; ;.:゙ィ;"゙ィ ; ; ;゙ィ゛ ゛; ゙ィ; ; ッ; ;
; ;ヾ ; ;ゞ ;" "ゞ; ; ; ゞ゛;ゞ:.; ;ヾ ; ;ゞ ;               `    ゙ィ;゙ィ゙ィ;ッ゙ィ;゙ィッ゙ィ. ,.ッ゙ィッ: ; ; ッ; ; :.ッッ:゙ィ
ゞ:ヾヾ.: ; ;ヾ ; ; :ヾゞヾ., .ゞヾゞ;ゞヾ;ゞゞ;ゞ   `  `       ゙ィ,;゙.ィ゛ ゙ィ; ッ ; ; ッ; ; ゙ィ ; ; ; ゙ィ゛ ゛; ゙ィ; ;ッ;゛; ッ,,
,,ヾ ;";ヾ; ;ゞ ;" "ゞ ; ; ; ゞ ; ;ヾ ; ; ヾ ;ゞ "ゞ;ゞ    `       ..:.゙ィ ;゛;" ゛゛ ッ; ッ; ; ゛゙i゛; ;ッ;゛; ; ッ; ゛; ゙ィ; ;
; ;ゞ ;" ;ヾ ; ;";ヾ; ;"/" ; ;ヾ ;ヾ "" ゛;"; ゞ:.  ゛    ` ; ; ; ゙ィ゛ ゛; ゙ィ; ッ ゛゙i゛; ; ゙ィ゛ ゛; ゙ィ; ;゙ィ゙ィ; ッ ; ; ッッ; ゛
" ;ヾヾ ; ; ヾ ;ゞゞ; ;ゞ ;" "ゞ ; ;"/" ヾ ;ゞ ;" "ゞ ; ; ;     ,.゙ィ゙ィ; ;"゙ィ ; ; ;゙ィ゛ ゛; ゙ィ; ; ッ; ; ゙ィノ.y.:゙ィ ッ:゙ィッ;ッ゙ィ
ゞヾ;ヾゞ:ヾ ゞ:.y.ノゞ ; ;ヾ ; ;ゞ ;" "ゞ; ; ; ゞ゛; ;ゞゞ.;;.ッ ィ゛ ;;; ゙ィ ; ; ; ゙ィ゛ ゛; ゙ィ; ッ;;"゙ィ ; ; ;゙ィ゛ ゛; ゙ィ; ; ッ; ; ゙ィノ.y.: ィ
ゞ:.y.ノゞ ; ;ヾ ; ;ゞ ;" "ゞ; ; ; ゞ゛;;ヾ ;ゞ ;" "ゞ ; ; ; ゞ ;;; "ゞ;ヾ; ;"゙; ; ;.:゙ィノ.y.:゙ィ;"゙ィ ; ; ;゙ィ゛ ゛;  ;;゙ィ; ; ッ; ; ゙ィノ.y.:: ィ
ゞ:.y.ノゞ ; ;ヾ ; ;ゞ;;  ;" "ゞ; ; ; ゞ゛;ゞ:.y.ノゞ ; ;ヾ ; ;ゞ ;" "ゞ; ; ; ゞ;.;;.; ゙ィノ.y.:゙ィ;"゙ィ ; ; ;゙ィ゛ ゛; ゙ィ゙i_:; ; ッ; ; ゙ィノ.y.:゙ィ:
:ゞ:.y.ノゞ ; ;ヾ ; ;:_/ゞ ;" "ゞ; ; ; ゞ゛;ゞ:.y.ノゞ ; ;ヾ ; ;ゞ ;""ゞ;.,., ; ; ; ゙ィ゛ ゛; ゙ィ; ッ ゛゙i゛; ; ゙ィ゛゙i;_;;:ッ゙ィ゛゛;;;;゛; ; ゙ィ゛
"ゞ ; ;";;;;""ゞヾ:;;_;/"ゞ ; ;"/" ヾ ;ゞ ;" "ゞ ; ; ;                      `    ″!、;;!、;;゙ィ; ; ;;;;;;
 ;;;;;; ; ;ゞ;;ノ;ノ″     `         `        `    `       `     `    i ::.....;;;; ;;;:
:;;; ;;;;.....:::/    `                                            i:::.....;;;; ;;;:
;....;;;::::;i;..ii|            `       `    `       `     `               |ii..;i;::::;;;....;
:::: ;;;..;.ii:i|    `    `     `                                       |i:ii.;..;;; ::::
::..;;;.::.. :ii| `                   `          `         `        ` |ii: ..::.;;;..::
:::.::;.;;;.:i;:iii|      `                                              |iii:;i:.;;;.;::.:::
:;;.:. ..;;.ii;i|           `        `       `     `                |i;ii.;;.. .:.;;:
;;;....;;::;...;;ii|                `           `          `           |ii;;...;::;;....;;;
::;...;;:..;i...iii|    `  `       `               `      `                |iii...i;..:;;...;::
:..;;;.;;;.:;:;i.;ii|           `        `                                  |ii;.i;:;:.;;;.;;;..:
::;...;;.;;ii:i;;;:;i|                                                   |i;:;;;i:ii;;.;;...;::
::;...;;.;;ii:i;;;:;i|                                                   |i;:;;;i:ii;;.;;...;::
.;... .;;:.;:;iii;i|                                                 |i;iii;:;.:;;. ...;.
iii;;ii:i;;i:i;:;iii;;ii                                                 ii;;iii;:;i:i;;i:ii;;iii
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それでも世界は、当たり前のように続いていきますし、
同じように、お母さんの日々も、続いていきます。

ごくごく、当たり前のように、たんたんと。

477  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:51:48 ID:c970524c

いつそっちへ、行けるかは分からないけれど。
いつかそっちへ行った時に、色んなお話ができるように、しておくからね。

だから、ほんのちょっぴり、さようなら。
それじゃあ、またね、バイバイ。

永遠も半ばを過ぎた頃までには、また会おうね。

━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─


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       ヽ、  ヾユ ,∠ 丶 、
       /フイ{''" ''‐ゞ、 ` 、
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     .!:i :i ハl     '"` | :::l:::.l
     jλ ::i j /゙゙        | ::::!::ハ|
     lハ ::Nハ    _ ..  ,j ::/:/
     {  V:::|::ハ、..,,_ー',.ィ'i_|:/V
        ヾレ' _ ヾyノ厶/ jム>、
       (ヽ」 |ィ'i!_l|. /,/,.r‐''¬
      (ニヾ  У/i!|///   |
      ⊂ニ  ,ノ」⊥く/     |
       (,ュ/`''/  ,r、〈       |
      /ァ′ ,' 〃| と二ニヽ.ノ
      `!  ハ// Yマ===ミ,!
        ヽイ_/_/l_  |/  /'''''"」
         У丁丁フ  /六 ̄
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お母さんは、お空に向かって、そっと、つぶやきました。

478  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:52:20 ID:c970524c
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                                    d⌒)  ./| _ノ   __ノ


         /   .| ,-‐- 、
       -‐ヽ、 κ    >                                  ,.-‐==‐-
    , ': :. :/‐.ニ--.i-< `ヽ、        、-ー'`Y <,___               .ん::: '´                     _,.-―‐-._
.  /: :. : : :j/: :. :/ト、、:.ヽ: :.\    .__≦ー`___ _二z<_            .人:::::、                        /::::::::::::::::::::::::::::\
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  |: : :|: :. :|:レ_, /‐//.| ヽ|ヽ、|: :.|: :ト <  之              \          ,.::'゙.:.:::::::::::::::::::::::::::::::::::ニ‐_          ,'::::::::::::::::::;;;;:::;;:::::::;::;;::::::::::i
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  {: : :|: : :ヘ'レ        Vヘ: :|: :|   | |/   |   |  ヽ  \ { ヽ    .η.:.:::::::::::::::::::::/.:::V:::::::{:::::::::.゙:;:':.    ..|::::;;:;;:;;i|:;/‐|/'!;;::/-リ‐!;;:;;;;;:;!
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   ヽト:|ヽ: :丶、     .くハ|:/     .\ \ヽ'く xx    xx レ       .ノリ:::::::::::{{:::::::jj::/.:://    ,.メ7人\`ヽ     .|;;i' 、ヾ _フ , ′
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479  名前:◆.Chhu9/tgb7t[sage] 投稿日:2020/05/18(Mon) 23:53:42 ID:c970524c
これにて投下終了です
絵本風というか童話風というか、そういった作風で
一度やってみたかったので、やってみました
そうなっていたら幸いです

それでは皆様、お疲れ様でした