旅
251
名前:◆NBJATnhEhM[] 投稿日:2019/08/18(Sun) 12:31:52 ID:2c524628
なぜ人は寂しさを感じてしまうのだろう。
どうして木のように動かず何も求めず、ただ漠然とした心持ちだけで生きていくということができないのだろう。
我々にはもとより影という旅の道連れもなく、したがって本質的に独りである。
だから二人で寄り添っているのだが、それでさえ耐えきれなくなるほど、今回の事件はこたえた。
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252
名前:◆NBJATnhEhM[] 投稿日:2019/08/18(Sun) 12:31:52 ID:2c524628
歩きながら、我々は自然と涙をこぼした。
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253
名前:◆NBJATnhEhM[] 投稿日:2019/08/18(Sun) 12:31:52 ID:2c524628
水銀燈の流す大量の涙が黒い線となって道に跡をつけた。
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To Be Continued.
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254
名前:普通のやる夫さん[sage] 投稿日:2019/08/18(Sun) 19:11:39 ID:754847de
おつ
引き込まれるという感覚を久しぶりに味わった
255
名前:普通のやる夫さん[sage] 投稿日:2019/08/18(Sun) 19:28:06 ID:9b76df72
乙でしたー!
やる夫スレというより、挿絵つきの小説だね
256
名前:普通のやる夫さん[sage] 投稿日:2019/08/19(Mon) 01:06:56 ID:03184f75
乙!
こういうの好きだ
257
名前:普通のやる夫さん[sage] 投稿日:2019/08/19(Mon) 01:50:31 ID:e84560aa
乙
258
名前:普通のやる夫さん[sage] 投稿日:2019/08/19(Mon) 20:29:53 ID:0bca2ac5
乙!
面白いぞ
259
名前:普通のやる夫さん[sage] 投稿日:2019/08/23(Fri) 17:49:04 ID:a536504c
乙!
260
名前:◆NBJATnhEhM[] 投稿日:2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988
一本の折れた剣を草むらで拾った。
ぁ
. _ /シ
/イ>≠=く
///イ. ̄/ヽ) ,,,
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(_ノ
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261
名前:◆NBJATnhEhM[] 投稿日:2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988
それ以来、私はずっとその剣をいろうている。
くるくる回してみたり、素振りをしてみたり。
あるいは片手で持って剣舞を踊ってみたり。
本来あるはずの刀身が半ばで失われているのがなぜか面白く、
空気で出来たやいばを持って踊っているような気分になった。
一度など、野盗に襲われた時、本気でその折れた剣で戦おうと思ったほどだ。
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ヽ ァ┬、Yノ
∧ |ニ|)
ト |ニ|
′|ニ|
,′ |ニ|
' :|ニ|
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,r′ 弋ノ
/.:i |ヽ=ミ
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262
名前:◆NBJATnhEhM[] 投稿日:2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988
私は大地に折れた剣を突き刺し引き抜くということを何度も繰り返した。
大地に腹ばいになり、立てた剣の柄にフーッと息を吹きかけた。
また買ってきた鞘に折れた剣を収めると、鞘ごと体に縛り付けて、湖に入って泳いだ。
真ん中まで行って浮かんでぼーっとしていると、いい気持ちになった。
上がってからは折れた剣で湖の水面を切った。
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r '´ , r'´ , r' ´。 .r゚、 _r'´ `ヽ . ,ゝ゚。 ヽ `ヽ、 ヽ
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r' ,i' ,i' `¨'' ー---─ '''¨´ ヽ 'i ヽ
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263
名前:◆NBJATnhEhM[] 投稿日:2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988
全身を乾かすために火を焚くと、その傍に剣を突き立てた。
残った刀身に火が映るのを眺めて、私は長い間過ごした。
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` ヽ、 ,ノ )´( 、 ノY
) Y 人 .Yィ
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_,ノ .. .// / ソ
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从ヽ.; .// / ..;,ノ
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(\,ノ´フ,{='に}/{てニ}r=ィへ,)≡==-
>`てk-'ト、iノ//ヽ)ー'レr小)人ミ三≧
(ノメ'トf //けi」(ノ'(ツハ)ト)三≧
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264
名前:◆NBJATnhEhM[] 投稿日:2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988
その翌日、水銀燈から離れて一人で森の中を歩いている時に、私は一人の女に出会った。
両腕のない、全身真っ白い肌と長い灰色の髪をした女である。
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265
名前:◆NBJATnhEhM[] 投稿日:2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988
私は女に挨拶をし、どこからやってきたのかと尋ねた。
女は無言で顎をしゃくって私を招き、森の奥の家へと導いた。
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266
名前:◆NBJATnhEhM[] 投稿日:2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988
家には真ん中に切り株を据えたテーブルがあり、老いた蛇が隅でとぐろを巻いて眠っていた。
女は切り株の上に座り込むと、器用に、そして何より優雅に、
足だけを使って酒瓶を掴んで持ち上げ、空の杯に中身を注いだ。
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267
名前:◆NBJATnhEhM[] 投稿日:2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988
「ん。」 とだけ女は言って私に酒を勧めた。
私は勧められるままにそれを飲んだ。 白く濁った液体で、独特のきつい発酵臭が鼻腔に広がった。
強い酒で、味はよく分からなかった。
女はすぐに杯を乾かしてしまうので、そのたびに私が酒を注ぐことになった。
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268
名前:◆NBJATnhEhM[] 投稿日:2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988
それから長い間、お互い黙ったまま酒を飲むだけの時間が過ぎた。
日の沈んだ頃、女が突然私に話しかけてきた。
「剣を出してみろ。」
私は驚いて、何を聞かれているのか咄嗟には分からなかった。
しばらくしてから、迷いはしたが、私は普段使っている方の剣ではなく、例の折れた剣を女に見せてみた。
/ ヽ ヽ
\ / / ヘ ヘ
V / ヘ ! l ヘ '.
`ヽ. / / / i | | l |
ン′ / / / i | ト、 | | |
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{ |│ | __  ̄ ̄ヽ i |ヘ. /_ } | ,' リ
: '. ヘ { | ヘ¨乙ラテぇ-' ヽ. | V ` } ,' / /
ハ. ム '. ! 弋::::::rノ \| '{乃テフ7| / //
} l } \_,.厶. ヘ ヽ ヽヒノ ' リ //
ノ ,' 7 \\{、 ;. イ /
{ / ∧ / ヽ / ハ/
乂. ,ハノ j/ \ \ ,. , ′
レ′ ,ハ::::::..\. \ '"´  ̄′ /
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/ ` ー- .::/l } ` ´
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269
名前:◆NBJATnhEhM[] 投稿日:2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988
女は受け取った剣を穴が開くほど見つめた。
それから長い長い間、静かに息を吐き出した。
「お前はこいつの再生を望んでいるのか?」
私はできることなら、と答えた。
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∥: : : : : : l:|:!: : :!|: : |: :!l: : :l:! |:|: : } : ハ
':!: : : : : : :l: |!',: :|:! ̄!:T-- l- ' |:l: :メ: : トl
l:l: 、一 =l: : : ゞー芹示ミヽ! | /ー-/ |l::/ }
|:|: : ヽヘ(`l : : : : | 乂rソ !示ヽl |l; ノ
|:| : : : :\ l : : : : | ゞ' /:!
|:l: : : : : : :.l : : : : | / /: :|
l:l: : : : : : : | : : : : ! / : :l
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l: :!: : : : : : |l:l: : : :乂ヽ-…-/ : | ,,_ : | : : : |
l: :|: : : : : :l !l:ゝ -彡イニニニニニニヽ.: :.:|
l: :i: : : : : :j | ゝ= '/ニニニニニニニニム: : :|
l: :l: : : : : jニ|ニニ/ニニニニニニニニニ=-: :|
,': :l : : : : 7ニ乂シニニニニニニニニニニ=-:|
/: /: : : : /ニニニニニニニニニニニニニニハ
/ :/: : : : /ニニニニニニニニニニニニニニニ!
/: /: : : : /ニニニニニニニニニニニニニニ彡≧、
/ :/: : : : /ニニニニニニニニニニニニニ<ニニニニ{
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名前:◆NBJATnhEhM[] 投稿日:2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988
「この剣は強すぎる力を行使することを恐れて、戦いのさなかに自ら折れて、主人からわざと捨てられることを選んだ物だ。
お前はそれを再生しようとしている。 どういうことか分かっているのか?」
私はそれを聞いて、自分は知らなかった、剣に対してすまなく思うと言った。
実際に声に出して 「剣よ、ごめんな」 とつぶやいた。 するとその様子を面白く思ったのか、女は自分がこの剣を
鍛えなおしてやろうと言い出した。 ただし刀身はここにある複数の剣の中から選んでもらう。
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. _ /シ
/イ>≠=く
///イ. ̄/ヽ) ,,,
┬┬┬┬┬┬┬(,イ //∠.ニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニ;;_;_
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271
名前:◆NBJATnhEhM[] 投稿日:2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988
女はそう言って私に三本の剣を紹介した。
一つは輝くほど見事な直剣で、一目見ただけで分かるほどの名刀だった。
次の剣は優雅な曲線を誇る刀で、おそらくは東の国からやってきたのだろう逸品だった。
思わず手に取って振るってみたくなるほどの物だ。
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名前:◆NBJATnhEhM[] 投稿日:2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988
最後に紹介されたのは黒い色の刀身をしたとてつもなく太い大剣である。
しかしそれは半ばで折れていた。 おそらく折れていなければやいばの部分だけで人の身ほどはあったろう。
無骨な剣で、柄に飾り気は何もなかった。
人から愛されることを諦めた人のように、その剣は何らの表情も作ってはいなかった。
r―――――――――――――――――――,,
_ | ̄~ヽヽ--------------------------------<
〔l }IIエエエエエエエ| {己 :||:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;;>
 ̄ル |_..ノ ノ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐乙
└―――――――――――――――――――'''
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273
名前:◆NBJATnhEhM[] 投稿日:2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988
私は最後の剣に決めた。
これがもっとも自分に合っていると思った。
なんとなしに部屋の中を見渡すと、隅で老いた蛇が寝ているのが目に映った。
なぜ合っていると思うのかと女は私に尋ねた。
そこで私はサクラについて語った。 彼女と愛し合った日々と、その別れについてである。
もし彼女がまだ生きていたら、自分は二本目の美しい曲刀を選んだろうと言った。
しかし自分の半身である彼女が消えた今、ふさわしいのは、どこまでも折れた剣に違いないと答えた。
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274
名前:◆NBJATnhEhM[] 投稿日:2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988
少しの間があった。
女は無言のまま頷いた。
どうやら鍛えなおしてもらえるらしい。
私はやがて切り株の上で眠り込んだ。
眠りにつく前脳裏にあったのは、そう言えばまだこの女の名前すら知らないのだなということだった。
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275
名前:◆NBJATnhEhM[] 投稿日:2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988
朝になった。
隅の蛇はすでに起きており、与えられた穀物をその場で食べていた。
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276
名前:◆NBJATnhEhM[] 投稿日:2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988
女は自分はシルヴァというと名乗った。
それから顎でしゃくって扉の前にある剣を示した。
私はそれを手に取って抜いてみた。 どうやら再生された剣らしい。
剣はもとより長く、切っ先が鋭く整えられていた。 刀身は黒く、鈍い光を放っている。
女は寝ている間にこれを鍛えなおしたようだ。 しかし両腕のない身で一体どうやって?
∧
∧∧
∧XX',
/XXXx',
l XXXX',
lXXXXX,
lXXXXX,'
!XXXXx,'
.,'XXXX','
,'XXXX','
,'XXXX','
,'XXXX','
/.XXXX','
./XX XX','
_/XX/iX','
ヽX/ |X,
i ( '''',;) X'i
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! \_,ソ
` 、/
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277
名前:◆NBJATnhEhM[] 投稿日:2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988
私が首をかしげている間に女は外へと出て行った。
私が後を追って出ると、女は森から出て川沿いに歩き、現れた橋を渡り切ると、
さらにしばらく歩き、ある集落までたどり着いた。
まだ朝日は昇り切っておらず、外を歩いている人もわずかである。
その日は霧が濃く、女の着ている物が濡れて体にはりつき、美しい脚の形を浮かび上がらせていた。
:.:.:... )⌒ヽ、: : : : : : : : : : : : : : : ``丶、
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i:{_从_ノL_从ノノ乂:.;:.;:.;:.:._ノ__|:_:_:_: : : : : : : :_:_:_:_:_〉;';';';':.;:.;: : : ,::; : :Y:.;:.;:.;:.;:;:;:;::;:;:;:;:;:;:;i:i:i:i:i:i:::::.;:.;:.;:.;:.;i:i:
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278
名前:◆NBJATnhEhM[] 投稿日:2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988
女は民家の玄関の前に立つと古い失われた言葉で呪文を唱え、小さな木の人形につばきを吐き掛け、
それを扉の前に置いた。
すべての民家でその行いを繰り返すと、女は集落を立ち去り、自分の家まで戻ってきた。
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r'´ `ヽ.
i ',
i ',
i ',
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r'´ ,r 'i´ ̄ ̄`i'ヽ、 _,,)
ゝ、_i |● , ●| i'¨ヽ
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ゝ、__,ノ ゝ、i`Y∀Y.レ' `ー‐'゙
./´. ¨ `ヽ
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,i i, | i,
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 ̄Z i`ー'ー'-'ー'ー'ー' 、 <´
!/レ'´i,.イ`ト.,r'l ,.ri`ト. ,ヘ.i´
,r'''7゙./、 ,r.i .ト、
〉、_ー'_ノ i. _'ー'_,)
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ヽ、_,/ '、 ,)
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279
名前:◆NBJATnhEhM[] 投稿日:2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988
あの行為には一体どんな意味があるのかと尋ねると、女はこう説明してくれた。
あれはその家の穢れを吸い取って、つばきを介して木の人形に封じ込めているのだ。
ああした後、その家の家長が人形を踏んで壊す。
すると穢れは払われ、清められるという。
私は段々シルヴァのことが理解できてきた。 彼女は神の一種なのだ。
しかしそれゆえに特別視され、遠ざけられている。
村は彼女を外れた場所に住まわせて利用しているのだ。
-── ヘ
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280
名前:◆NBJATnhEhM[] 投稿日:2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988
さて、私はシルヴァに礼を言うと、黒い剣を携えて家を発ち、水銀燈と合流した。
そうしてまた元の二人旅が始まった。
,. -ュ,ニニ弌垳ト、
/r'^ _rヘ-ヘ/^ヽr宀、
/!7ト、7′ 〃 l ヽ ヽ
、 / l//L」| ∧l | ! |l | ! ヽ
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\ ヽ:∨ |」 /l| lトヽ ̄ レ'戎シ' / ′
⌒ヽ!ヽ._j\\ / 八 |ヽ __ ' ∠r1=彳
::..::..::..::..::..`::..::ヽ/ ハ ヽ‐ >、 ,. イ| }::..`ヽ、
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仆、 :.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:. ∨_l〉 ri心:.:',:.:.:.:.:ヽ}
′ \_.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.: ∨_ ゞ=仆ヽ.:.:_ノ
, 〉个、:.:.:.:./.:.:.:.:.:.:.:.:.∨_ l }〉:.}'´
| く_/^ト、>:.∧:.:.:.:.:.:.:.:.:. ∨_リ 〈|:.ハ
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281
名前:◆NBJATnhEhM[] 投稿日:2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988
それにしてもさずかった黒い剣は、絶大な力を有していた。
西の山奥に人をかどかわす妖怪がいると聞いたら、我々は率先して山を訪ね妖怪を退治した。
あやかしは剣の一振りであっさりと滅びた。
東の湖に人を引きずり込んで溺れさせる魔物がいると聞けば、乗り込んでいって斬り殺した。
_ _ _,
ヽ \ \`ヽ ,イ //
〉 ヽ i、ヽ ゝ {〈、 ∧ / /
i i弋_ヽ,ィ`ー┴-ゝ〉_ / ト、
| ゝz'´ ,r─-、 \`ヽ´ i ヽ
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`> ゝ _ _ノ _____ノl___i
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、 l_ i iニニニニニニニゝ'ニ' / .!/
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l;/ ';,\/:::}\ 弋ヽ:::::::゙;:::::::! r-、
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i;/ ;!,'ヾ__ `ー-ヽ、:::::}  ̄`'
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‐=ニ三三三三三ニ=‐
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282
名前:◆NBJATnhEhM[] 投稿日:2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988
魔物たちはいずれも黒い剣の前に造作もなく滅びていった。
そうして我々は魔を倒す請負人として名を馳せていった。
我々自身が悪しきものの一種であるというのに、皮肉なことである。
: | |::::::/\ / / ヽ
:/ | |:::/ \ / / / /; ヽ |
/ | |/^\ \ :′ / ′ / | | l
八 | \ | | / | ト、 | |
/ .:/ | ヽ \ | / _ __ / |
:i |:::| \ / |l ‐ 「 / / ̄ ̄¨>x] |l ト | |
l | |:::| \ |/ | /-― ―┐ | |l | 〉 乂 ノ
l | |:::{\ ‐-/| |l |// ____ : 八 レ |  ̄
l | |:::[ \ / 厶 |l  ̄| ̄ 丁¨¨Τテ卞、 |l /_〉 |
l l /:|:::|l、 \ { { \、 | ヽ _し:::丿 /、了] ∧ |
l | |::|:::|/\ 人 ゝ ^八 | \| / ^
l | |::|:::| \ \ \ ヽ′ /
l | |::|:::| \ \_ ノ \ ! / /
l | |::|:::| \ 八 /∧ ト }
l | |::|:::| >/ ∨ \ -―― - ,
l | ∨::j ∧ / /| ′
| ∨ / ヽ / | /| `
|ヽ _/ 、 レ | /| /> /
/ ) / ヽ \ レ |′〉 ‐
/ / ,/ / \ 丶 |/|
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l/ / 、 \
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283
名前:◆NBJATnhEhM[] 投稿日:2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988
さて、ある時、我々は疫病が蔓延して滅びたばかりの町へとたどり着いた。
生きている者はただの一人もおらず、民家をのぞき込んでも、いるのは寝台の上に横たわった死体ばかりという町である。
i
|
八 ⅰ I
ⅰ |ー|_____ ⅱ ハ ∧
__|__ 八 ___| ̄| {_八 γ丶 ⅰ ロ .|i |i _
∧,_______|二|_\\ | ___/| | ∧_V∧_/__「丁 ̄|∧ ̄Y ̄| |─、_v─、 盂...∧_| | |i_|i/_\
. _..|¨:|\__|_∧| ̄| /_∧¨|¨:| |ヘZ7ZZZZZ癶ZZZ癶~丁T T'''T ̄| / ̄/¨/_/ ̄ /`|├|_|¨癶_,|::::|I I I I I |/ ̄
_ |_|_..|__|__|_| ̄| ̄|IIII|II|¨| | | |\ ̄\ | | | ̄| |¨| | | ̄|丁¨| ̄|I I| ̄| ̄| ̄|丁| |¨| | ̄|::::|I I I I I | ̄
⌒⌒⌒''<三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
`:、`:、`:、`:、`:、─‐L |Y´ `Y|Y´ `Y Y´ `Y Y´ .`Y Y´ .`Y Y Y Y^YY^Y YY^i| \ 爻爻爻
,:",:" `:、`:、`:、`:、`:、`:、`:、``| | |,、vivi、|_|`:、`:、|┬┤`:、`゙|┬┤.:.:. |┬┤ ]|_| | | |_||┘ ̄爻爻爻二爻爻爻爻
,:",:",:",:"ノ⌒ヽ⌒丶、`:、`:、`:、レi:i:i:i:i:i:i:i:i:ヽ|;';';';';';'|||.:.:.:.:.:|||.:.:. |||/\ ̄ \vvvvvv爻爻爻vv爻爻爻爻xX爻爻
,:",:",:",:"(;';';';';';');';';';';';';')、、、、、 {i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:}|.:.:.:.:.:.:|⊥⊥__/ヘ ゙̄\|⊥ミミ ̄ ̄| ̄ ゙̄|;';';';';';';'爻爻淡淡爻爻爻爻淡淡淡
从从`:、`:、;';';';';';';';';';';';';';';';';';';';'乂i:i:i:i:i:i:i:i:ソ` : : : : :爻/____∧_',_____\ミミミI I I | I I I I|'⌒;';';';';';';:;.:,:;.:,:;.:,xX爻爻淡淡淡淡
从从从从;';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';'`Yi'"~ : : : : : : :爻刈ⅰ |_..|I I | I I I |ミミミミ ̄乂;';';';';');';';';';';')xX爻爻淡淡淡淡淡淡淡淡
淡淡淡淡淡爻爻Xx、、、: : : : : : : : : : : : :  ̄ ̄`'㍉ ̄ ̄ ̄ミミミミ: : : :;';';';';';';';';';'xX爻爻淡淡淡淡淡淡淡淡淡
淡淡淡淡淡淡淡淡淡爻淡淡Xx : : : : : : : : : : : : 辷i;';';';';';';'`ii゙;';';' : : :爻爻爻爻淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡
淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡爻爻爻Xx : : : , : :'゙ : : : : : : : : : : : : : : :爻淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡
淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡爻Xx: : : : : : : : : : : : : : : : vivivivivivivivwWW爻淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡
淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡爻ン: : : : : : : : : : : : xxヾ;:ミ:ヾ;:ミ:ヾ;:ミ:爻爻爻爻爻炎炎淡淡淡淡淡淡淡淡
淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡爻爻爻爻x""""""""""""ヾ;:ミ:ヾ;:ミ:ヾ;:ミ:ヾ;:ミ:爻爻淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡
淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡爻爻Xx:;.:,:;.:,:;.:,:;.:,:;.:,:;.:,:;.:,ヾ;:ミ:ヾ;:ミ:ヾ;:ミ:ヾ;:ミ:乂爻爻淡淡淡淡淡淡淡淡
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284
名前:◆NBJATnhEhM[] 投稿日:2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988
我々はさっそく死体を集めると、それらを焼き、墓穴を掘って埋めるという作業を始めた。
大量の死体は焼くだけでも大変だった。 我々は全身煙まみれになり、汗だくになった。
それでもその作業は続けられた。 焼いている最中に、二つに一つは頭蓋骨は割れて粉々になった。
それから空いた民家を掃除し、きれいにして回った。
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285
名前:◆NBJATnhEhM[] 投稿日:2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988
すべてが終わる頃には町はすっかり綺麗になり、まったく空っぽになった。
寂しさの極致のような光景である。
ただの更地よりも、人を住まわせる家があるのに誰もいないという方が実に虚しいものだと思う。
我々はしばらくの間適当な民家にとどまって日を過ごした。
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286
名前:◆NBJATnhEhM[] 投稿日:2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988
我々は疲れていた。 疲れ果てていた、と言っていいだろう。
ここのところすっかり活動的になって魔物どもと戦ってきたこともある。
何十年も漂泊の旅を続け、どの町にも定住することなく、日々をさまよい続けてきたこともある。
一度足を止めてしまうと、誰からも顔を見られず誰からも影のないことを咎められずに済むことに、
我々はすっかり居心地のよさを覚え、離れられなくなってしまった。
// ̄ヽi /,.≦√:::::ー<:::::フ_ <::ト、 ゝ┐_,ハ
r_ ニニニj::::::二ニニニニyzzン、_,ハー=ミ::::::::ュ\ヽ >_}} ,
_j::ー':〈≠,:/  ̄  ̄乂zz<::::::::}ヽ:. <,Y ',
//// テ' `=r、:::ヽヾ,´ ト '
</ /::/=チ / 乂_寸ムi=《 l
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/ ' l , .! | .l ,' , 弋ト==、jム
∠___| ' |,ハ !, | ,'| ! ハ | }::ィム.、]::{
/二二二 { ', .| ',`:ト ュ' :i | '|i. i ハ:ニ::ムト、::', 、
,.............../二二二ニニム i }ヽト、 ',|{ | | /: / |∧ } ト=::::|二Ⅵ二二ミx
,'二二二二二二二ニ=ム} リ ` =zヾ }' ! / ̄}'¬, ,' :|,ム }:::}二二二二ニ |
. _{二二ム二ニニ{二二二(j | ,ハ ′}/ 、/ ', } ' リV ):7ニ/二二二ニニト .,
,xく二二二ニムニニ',ニニニ/ j | ト、 ` ==zY / Y:二/二二ニ/二二ニ\
/二ニニニニ二ムニニ,二二厶イ | ,ハ 、 ノ ノ ノ二{ハ ,r┐ ̄>=< ̄ヽ、
。゜=, '´ ̄ ̄` -(: ; \__',二二(_, 、l / ヘ、 -、 ` ' _ =ミ >=ニ_r'__ーv't=-二ニ}ー' _,.='´ヽ ̄ ̄` 、
二/ ー── r─'ニ=──(::===彡' フY< >- '´ ヽ\`ー-y ` ー=ミ、  ̄` 、 〉 - 、_
ニ! 、_ ,' f´_ -- j¬ ´ 、 ヽ ヽ,\(__ __ r' 乂
/ー- ==_┐ 「´ ー7、{:.. , ‘, ‘, ‘,ノ ) ` 、 L, ___ [,  ̄`
ト、 弋¬r== ' ー── :j __ i{:... ,.ィ メ、 ':, 〉/---j_,. ---- ミ ` j
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ヽ /ハ-(` < __{{ ノ ,==z_/ ∠__,. ' ヽ _,、_ ヽ /
 ̄ ̄ ̄ ̄ヽ_>'´ { / ゝ─ ´
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287
名前:◆NBJATnhEhM[] 投稿日:2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988
このまま誰もいない町の影の住民となって、ずっと死者たちと共に過ごすことになるのだろうか。
それもいいかもしれない。
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, // _,, -'' ノ
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、二二,-' // { / / ' ヽ ! |丶 丶 \ i ヽ ヽ.
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/ , ' ! _,i-' | i ヽ ` 、 iヽヽ | | :. ヤー`=+--
/ ,' | ,' l ', 丶、ヽ ヽ | ', |i. | ! |. | :. i丶| .lヽ|
',/ l l ', ', `,丶、 丶 i ', .l ', .l' l リ ノ_iー-! ヽ、l '
|' ',i | l i ヽ 、 ヽ/ヽ、ハ ,シ!ヽ! | | |. /lオー’ >ー,. -ーt-+ 、
, ' | ', , ヽ' , '/ ,X-,_| ', |',. |リ <./ i / /  ̄` ' ー 、
/ | ! l l 丶 i ヽ ',,,/辷ソ i. j !| ,r'ー' , ' , ' \_
' /',| l ', ! | ヽ、 ', .i l iー ´ l/ ' `l> / _/- \
ノ/ / ,'|, | . i ',. l __ヽ ', i| ノ _<-ー ''´ \
´ // ,' l l l ',. ヤ/,-' _;ー、 |:. , ''´ \
/ / ,' | | ', ヽ ', ヽ/込,iヽj 、 ::.. /_ -ー _
_ /_, -/ ノl∧ ', ヽ __.,、'、个辷/ ー /' ` 、
 ̄~ニ´' ´- ''´ l/,'~>--,' ̄/ 人_ヾt、__ .. -/  ̄ 、 \
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∠-─''/´ , , 'ン,ノ .! .,' / ./i,ノ
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i r ' //
`ー=ニ´- '//ト、
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288
名前:◆NBJATnhEhM[] 投稿日:2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988
私はある朝、外に出て村のはずれの荒野まで歩いて行った。
草の一本も生えていない、強風の吹く荒れた土地である。
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289
名前:◆NBJATnhEhM[] 投稿日:2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988
私はひときわ高い丘まで登ると、黒い剣を抜いて、みずからの首筋に押し当ててみた。
もしこれが魔を打ち払う剣ならば、自分のことも簡単に殺すことができるはずだ。
私は意を決して剣を握る手に力を込めた。 刀身が食い込み、首筋から血があふれ出してきた。
私は何度もそこで、さらに力を込めようと試みた。 そうすればあらゆることから逃げ出すことができる。
生きていることから。 というよりも、これから先、何十年も生きていかなくてはならないということから。
// /ヽ、 \ 丶、 ヽ \
l/ , -' ´ ̄ ̄ ̄`丶、 \ |\`、
/ /, -─- ' ´ ̄`丶、ヽ. | | |
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ィ彡三ミヽ ' ´/ // / / | l ', \ ./` ィ彡三ミヽ
彡'⌒ヾミヽ | /||| / ∧ |ト、 ト、 、 ト、 |`ーゝ ー彡'⌒ヾミヽ
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_ `ー―' ∨ l| |/ l/ ̄ | | ∨!/ ̄| /|| l/ .`ー―'
彡三ミミヽ | 从 |丈匸入 ヽ ト、!下丁l / /l/ 彡三ミミヽ
彡' ヾ、 _ノ |∧ \ ヽ \!  ̄ /イノ \_ ヾ´ ´ミ
`ー ' l/ Vl/>、!il|i ィ! U / `ー ´
,ィ彡三ニミヽ __ノ /,仆、 / ,ィ彡三ニミヽ
彡' |∧l l /丶、 ´ ̄`, ィ´l〉, ミ'
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ミ三彡' /⌒ ,. ‐'´ `丶、` ̄ ̄´_,. ‐'´ `丶、 ミ三ミ'
ィニニ=- ' ., .‐' ´ ` ̄ ̄´ `丶、 ィニニ=- '
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290
名前:◆NBJATnhEhM[] 投稿日:2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988
迷いが続いた。 刀身も首筋も、その位置を寸分も違えずにただ静止していた。
できなかった。 私は剣を降ろすと、今度は腕を浅く切ってみた。
そこから血が流れる。 私はそれでよしとすると、丘から降りて、誰もいない荒野を歩いて行った。
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291
名前:◆NBJATnhEhM[] 投稿日:2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988
変わり映えのない光景が続いた。
私はひたすら黙々と歩いた。 何も考えてはいない。 ただ歩いているだけだった。
やがて太陽が高く昇るころ、私は大きな穴に出会った。
小さな村なら丸ごと収まってしまうほどの規模の穴だ。
それはどこまでも深く、うつろだった。
中を覗き込んでも、底を見ることはできない。 ただ深淵の暗闇がこちらを見返してくるだけだ。
: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : _,,,.. -ー: : : :ト、: : : 、: : :.{: : : : :‐-、 : : : :Y: : : :ヽ;_;ノ: :: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :
: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :-、: : :/:Y: : : : : : : :ヽ: : : \;_;_;_;_;/\: : : : : : : :/-‐ ''" \: :^'~ ..,,: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :
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: :_; -:.V: : : /:.:.: ,,/″三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三`ヽ、;ノ: : : : : : :〉┤: : : : : :
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292
名前:◆NBJATnhEhM[] 投稿日:2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988
ここに飛び込んで死のう。
私は自然とそう思った。
また迷いの時間が続いた。
本当に死んでいいのか。
思い残すことはないのか。
意を決して助走をつけては寸前で思いとどまるという時間が長く続いた。
|:i:i:i:i:i:i:i:i:i:| !:i:i:i:i:|
|:i:i:i:i:i:i:i:i:i:! ∥:i:i:i:i:',
ヤ:i:i:i:i:i:i:i:l !1ニニ!!
ヤ:i:i:i:i:i:i:i:l l:|:i:i:i:i:l:!
ヤ:i:i:i:i:i:i:l 圦:i:i:i:リ:!
ヤ:i:i:i:i:i:i:l !:::: ̄::::|
ヤ:i:i:i:i:i:l ! :::::::::: |
ヤ:i:i:i:i:il ', :::::::: リ
ヤ:i:i:i:i:l ゙= "
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i!:i:i:i:i:ii!
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!',:i:i:i:i:i:!!
圦i:i:i:iリ:!
i!:::: ̄::: ',
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293
名前:◆NBJATnhEhM[] 投稿日:2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988
助走を繰り返すうちに、段々私は馬鹿らしくなってきた。
考えていることが面倒だ。
もう何も思わなくていい。 思念を消してただ走ろう。
そしてある時、あらゆる望みや責任感、そして面倒であることすべてが肩から浮き上がり、
空中に霧散していったその時、私は跳び上がることに成功していた。
己の身が穴の暗闇に吸い込まれる――
そう思った瞬間、私の意識はどこかへとかき消えていた。
ニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニ
ニニニニニニニニニニニニ=―  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ―=ニニニニニニニニニニニニニニニ
ニニニニニニニニニニ=― _,.斗*''"´ ―=ニニニニニニニニニニニニニ
ニニニニニニニニ=― _,.斗*''“ ―=ニニニニニニニニニニニ
ニニニニニニ=― _,.*''“ ―=ニニニニニニニニニ
ニニニニニ=‐♂ ,*'' ―=ニニニニニニニ
ニニニ=― ♂'' ,' ―=ニニニニニ
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294
名前:◆NBJATnhEhM[] 投稿日:2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988
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295
名前:◆NBJATnhEhM[] 投稿日:2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988
目が覚めた。
私は穴の底にいた。 どうやら死ぬことはできなかったらしい。
起き上がると、すぐ傍に髭づらの老人がいて、お前は今からこの穴の底をぶち抜いて、
ここを 「永遠に続く穴」 にしなければならないと言った。
私は血を流しすぎていて、物を考えることができなかった。
頭がぼうっとしていて、思念は漠然としていた。
> '' ´ ̄ヽ
/ __/
/ マ/ム
/ ´ ̄ ̄` 、
,イ/ / " ヽ
/ / / _ Y
/ / l  ̄`ー'´ ̄ !
Ⅳ ,x-j /⌒ヽ 〃⌒\レ-、
| l ! フ'/<・》} {《・>ヾ \}
\〉'/! ´^'''´/ ∨`'''^ ト、 \
/,イ`¨',/{__,ゝ、__ノ、_}\/¨´ト、 ヽ
l/l ,' : } ,人 { : | '
从_,イ从/l/ \lヽ从_ノ |/
_/,イ ゝヽ__
_,. ´ |: : :.} / / | | ヽ {: : :| `ー _
r '' ´ ∨: 从 从: :/ `ー _
| ∨: : :.ヽ / : : /1 i、
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l | \: : : /: : : : : :/ i i
| | \/: : : : : :/ i ト、
| ヽ /: : : : : :/ i ! i
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296
名前:◆NBJATnhEhM[] 投稿日:2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988
鍛冶屋が使う槌をもっと巨大にした物を渡されると、私は言われるがままにあちこちをその槌で叩き始めた。
すると次第に穴の底はひび割れてきて、大きな亀裂が走った。
さらにその亀裂を叩き続けると、凄まじい音が鳴り響いて底が抜けた。
私は落下していた。 一緒に老人も落ちていた。
暗黒のなか落下はいつまでも続き、いつ終わるともしれなかった。
やがて落ち続けることに疲れてくると、私は目をつむった。
早く眠りにつきたかったのだ。 だが、できない。
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297
名前:◆NBJATnhEhM[] 投稿日:2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988
落下している最中に、私は大きな鏡が自分の隣にあって落ち続けているのに気が付いた。
鏡を覗き込むと珍しいことに私の姿が映っていた。 遠い昔影とともに、鏡像もまた失われたはずだったのだが。
私は今度こそ自分を殺そうと思い立って、持っている黒い剣を抜いて、力を両腕に蓄えた。
しかし地面がなく、踏ん張ることができないので力が溜まらない。
どうしようかと思って辺りを見渡していると、老人が不意にその姿を変えて、優しい顔をした、あどけない少女になった。
「私が今からあなたを思い切り押しますから、その反動で好きなように剣を振るいなさい。」
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名前:◆NBJATnhEhM[] 投稿日:2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988
「えいっ」 という可愛らしいかけ声と共に私の背中が押された。
私はその力を利用して剣を振るい、鏡に映った自分自身を切りつけた。
鏡は割れ、乾いた音と共に鋭いガラスの破片があたりに散らばった。
するとそこで永遠に続くはずの穴の、その上方から陽光がさっと差し込んできて、穴中が光に充ちた。
光は私の全身に降り注ぎ、散らばったガラス片に降り注ぎ、少女の全身に降り注いだ。
ガラスは光を散乱させ、きらきらと光り輝く星となってあたりを満たした。
私は輝く星に取り囲まれた中で、少女の顔を見つめた。
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名前:◆NBJATnhEhM[] 投稿日:2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988
少女は幼い頃のサクラの顔をしていた。
まだ私が出会う前、自分が犠牲になる運命を知らなかった頃のサクラだ。
サクラは何者にも囚われない自由な表情をしていた。
生き生きとしていて、生命力に満ち溢れている。
私はその顔を見て 「まだ生きていよう」 と思った。
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300
名前:◆NBJATnhEhM[] 投稿日:2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988
そこで夢は覚めた。
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